池田勇人内閣‐夢のような時代の始まり

池田勇人という人は若干、舌禍の要素を持っていた人らしく、吉田茂の大蔵大臣をしていた時代に有名な「貧乏人は麦を食え」発言をして世の中を沸かせています。この手の発言が問題視されるのは今の時代も同じですが、池田勇人は元々大蔵官僚ですので、お上の金庫を満たすことを是としており、ドッジラインで財政均衡主義が既定路線になっていましたので、そのような観点に立てば、税金を収められない人は人ではないくらいに思っていたのかもしれません。

しかし、岸信介内閣の後を継いで首相になった時にはケインズ経済学に基づいた大規模な財政支出による経済成長を政策の主軸としており、本人も「所得倍増計画」という言葉が気に入っていたようですから、財政家としての矜持はあまりなく、どちらかと言えば舌禍を繰り返すあたりからみても「ワンフレーズ」が好きな人だったと受け取るべきかも知れません。

ただし、所得倍増計画は大当たりと言って異論のある人は少ないように思えます。当時、朝鮮戦争特需は既に終わっており、新しい需要喚起の見通しも特にない一方で、国民の生産潜在性は高く、供給過剰デフレ懸念が強かったはずですが、お上が率先してお金を使ってインフラにお金を注ぎ込み、地方にもバンバン使えと後押ししたことで、高い生産潜在性が十全に活用され、いい意味でのインフレが起き、所得は当初の計画以上のペースで上昇し、いわゆる高度成長期が始まります。21世紀の現代のように所得がなんとなく増えない、どちらかと言えば下がっているとも言える時代から見れば夢のような時代だったと言えるかも知れません。

日本は主要国に返り咲き、エコノミックアニマルと呼ばれようと、首相は世界に営業をかけていると言われようと、ひたすらモーレツに働く、モーレツ上等、努力は倍々ゲームで報われるという、ちょっと今では考えられないような時代です。東京オリンピックも池田首相時代の終盤で開催されています。解散総選挙では自民党が大勝ちしていますが、経済が良ければ政権党に支持が集まるとする典型的な分かりやすい例と言えるかも知れません。

しかしながら、いわゆる超過勤務の慣習が神話化されていくという副作用もあり、公害や自然破壊のような副作用は克服されたと私には思えますが、超過勤務の神話、長時間会社にいることがいいことだ、早く帰りたいと考えるの悪だという発想法が楔となって今も深く日本人の心に突き刺さっているのではないかとも思えます。努力が倍々ゲームで報われる時代であればモチベーションの維持に効果を期待できますが、そうでない場合はかえってモラルハザードの要因になる可能性もあり、私は個人的にはそれが池田首相のレガシーの負の面ではないかと思えてしまいます。

池田勇人首相は喉にがんが見つかり、入院中に次の首相に佐藤栄作を指名します。長い佐藤時代が始まりますが、三角大福中の大椅子取りゲーム時代も近づいてきます。