日本橋高島屋特別食堂の帝国ホテル仔牛のカツレツ

仕事の関係で、日本橋へ行った時のことである。日本橋の高島屋は昭和初期に建設された店舗が今も現役で活躍中であり、入っただけでも時代を感じることができてなかなか楽しいのだが、日本橋高島屋のプレミア感をぐっと挙げているのが特別食堂の存在である。この特別食堂では帝国ホテルと同じ料理がやや割安で食事できることで知られていて、他にも一流レストランの料理も楽しめるらしいのだが、とりあえずは帝国ホテルの味を堪能したいので、私は迷わず帝国ホテルのお料理を注文した。一生で二度と来ることはないだろうから、後悔のないように、しっかりと帝国ホテルの味を記憶しておきたかったのである。この短い文章で何度帝国ホテルという単語が出て来たか分からないが、それだけ私は希求しているのだろう。

で、あんまり高いものを頼むわけにもいかないし、まさかコーヒーだけというわけにもいかない。特別食堂では豪華な受付ルームがあり、そこで名前をつげてしばらく待って順番がくると名前を呼んでもらえて中に入ることができる。待合室は豪華な劇場みたいなところで、順番で名前を呼ばれるのはまるで病院であり、受けられるサービスは確かに一流ホテルのそれで、給仕していたいだサービスには、全く不満が残らない、感動的な素晴らしいものだった。

そういうわけなので、それらインフラとサービスに敬意を表すためには、ちゃんとお料理を頼まなくてはいけない。コースとかにする必要はなくても、やはりディッシュを頼まなくては申し訳ない。そうして私はやや安い仔牛のカツレツを頼んだのである。もちろん安くないが、他のメニューに比べればやや安かった。味は素晴らしいものだった。カツレツなのだから、揚げた直後のサクサク感が命なのだが、存分にサクサクである。中身はジュワッとなので、ワクジュワなわけなのである。

どこも人材を絞る時代なので、必要が生じた際、給仕の方に「すみません」と声をかけるのも一苦労な昨今だが、ここではヨーロッパよろしくテーブルの担当者の人がいて、さっと目配せしただけで私が何をほっしているのか察してくれる高い洞察力が発揮されており、おいしいお茶もおかわりし放題だ。もちろん、あんまりおかわりするとおかしいので、常識の範囲内でしかおかわりしなかったが、相当に高級な日本茶が給されたのであった。

ありがとう高島屋。ありがとう特別食堂。私はいつか、一度でいいから帝国ホテルでの宿泊を経験してみせるとの決意を固め、特別食堂を後にし、その日の日本橋での仕事にエネルギーを注いだのだった。