香港映画『大追捕』がよかった件

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香港映画の『大追捕』は、正統派のミステリーものです。おもしろい作品で、普通に楽しめます。

主人公の刑事は50歳くらいで結構渋い感じのおじさまです。奥様は亡くなっていて、娘さんがいますが、父親が殺人事件に追われて忙しいので、あんまり構ってやれません。職場には20代の若い女性刑事がいて、ちょっとそそっかしくて、でも感がよくて、上司の主人公のことが結構好きです。正統派の刑事モノです。アメリカ映画ならハリソンフォードがやって話題になっていいくらいの感じです。

音楽家の男性の他殺死体が発見されます。この男性には二人の養女がいて、一人は20年前に殺されています。もう一人の養女はその時に1歳で、今では美しく育ち、殺されてしまった前の養女にそっくりです。

20年前の殺人事件で無期懲役の判決を受けた男が仮出所してきます。『臨時同居』の主人公の人がこの男の役をしています。『臨時同居』に比べると痩せていて、よく鍛えていて、相当に役作りしたことが分かります。仮出所した男は音楽家の男性の家をストーカーのごとき執念深さで監視します。犯人はこの男ではなかろうか?という印象を観客に与えます。

主人公の刑事が丹念に糸を解きほぐしていきます。行き詰まると部下の女性刑事が出てきて、ぼそっといいアイデアをつぶやきます。絶妙のタイミングでつぶやきますから、本当によくできています。

ネタバレしますが、20年前の殺人事件の真犯人は音楽家の男性で、殺された養女が産んだ子どもがち実はその家の二人目の養女で(だからそっくり)、二人目の養女の本当の父親が20年前に冤罪で逮捕された男だったということが捜査によって明らかになってきます。男はストーカーをしていたのではなく、自分の娘を見守っていたということになります。『キサラギ』の香川照之的な立場です。

警察に囲まれた男はビルから飛び降りて死んでしまいます。私は途中から、この男は最後は死ぬんじゃないかなあと思っていたので、予想通りでしたが、冤罪で20年も閉じ込められて、自分の娘を見守って、追い詰められてビルから落ちたとすれば、どうしても同情的な気持ちになります。全く違うことは分かっていますが、『マークスの山』の犯人を連想します。

よくできていて、おもしろいです。香港映画と言うと、ついついアクションものか清朝歴史ものを想像してしまいます。この映画はそういうものを超えて、本格的なミステリーで勝負しています。香港の刑事訴訟法とかがどうなっているのか全然知らないので、香港の冤罪の構造とかそういうのは分かりません。ただ、20年前はまだイギリス領で、冤罪を生み出す刑事はイギリス人というところが、現在の治安当局を刺激しないという観点からもよく考えられていると思います。

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香港映画『臨時同居 Temporary Family』の演技力と人生観

香港映画『臨時同居 Temporary Family』は、不動産売買で大金を得て人生を変えようとする人々のコメディ映画です。あまりによく出来ているので感動してしまいました。

主人公の男性は不動産業者で働いています。離婚歴がありますが、美しいCAの女性と交際するようになります。そしていよいよ結婚を申し込みますが「大きくて素敵なマンションに住めないとイヤ。一年待ってあげる」と言われてしまいます。男性にできることはただ一つ、有利な条件のマンションを買い、それを更に高値で売ることで、大金を得るしかありません。

男性には義理の娘さんがいます。前の奥さんの連れ子さんです。男性は自分の娘のように大切にしています。娘さんは自分が独立して暮らせるマンションがいます。更に同じ会社の部下に中国大陸の大金持ちの息子さんが社会勉強のつもり就職して来ています。彼はどんどん新しいことに挑戦したいと思っています。そこへ、離婚して多額の慰謝料を受け取ってそのお金で不動産を買いたい女性が現れます。この4人が共同で出資して、香港の眺めのいい素晴らしいマンションを購入します。それぞれに複雑な事情を抱えていて、それぞれに想いや願いがあります。これは投資用に買ったものですから、そこに住んで暮らしてはいけません。そんなことをしたらなかなか売れません。汚したら価値が下がります。ところがまず女性がそこに暮らし始めます。なんか馬鹿らしくなって4人ともそこで暮らし始めます。マンションは売れません。マンションを内覧する人が現れると慌てて掃除しますが間に合いません。無駄なものを一機に放り込める箱を次々と作り出し、本棚にはフェイクの本を置いて裏に無駄なものを収納できるようにし、内覧の客が来ると何事もなかったように、主人公の男性はセールスマンで残り四人は清掃などのスタッフのふりをしてその場をしのぎます。

小ネタがいろいろあって、それがうまくはまっているのでついつい笑ってしまいます。半分はネタを作る力です。半分は演技力だと思います。演技がうまいです。目の動きが上手いです。表情の作り方がうまいです。演技がうまいのでネタに切れが生まれています。香港映画はたくさんありますが、その中でも傑作に入るのではないかと個人的には思います。

さて、この映画の背景には人生観があります。それはお金と愛と自由のバランスです。お金がなければ自由な生活は送れません。しかし、お金のために働くいていては自由とは呼べないと考える人もいるでしょう。主人公の男性はお金で愛を買おうとしています。離婚した女性はお金がありますが愛がありません。それぞれに何かが足りません。

中華圏の人のお金に対する意識は極めてシビアで、実際に中華圏の人と話しているとその金銭感覚に驚くことが多いです。ですが、お金が生きるために必要なパワーだとすれば、中華圏の人の生きることへのアグレッシブさが金銭感覚に表れているのだと考えることもできます。人生をもっともっと充実させたいという彼らに乾きのようなものを感じることもあります。

この映画ではお金はもちろん大切だが、それ以上に自分が乾いていることに気づいているか?という問いかけがあります。お金にシビアな社会だからこそ、この問いが響くのかも知れません。香港映画で私が感動する映画はそんなにたくさんあるわけでもありません。ただ、この作品は充分に日本にも紹介される価値があると思いました。

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