鈴木善幸内閣‐護憲と言葉の綾

大平正芳首相の急逝を受けて、新しい後継総裁・首相として指名されたのが鈴木善幸でした。鈴木善幸は元社会党の人で、自民党政治でもあまり目立たない人であったため、アメリカあたりでは「鈴木って誰だ?」と言われたそうです。

鈴木善幸が選ばれた要因としては、田中角栄の影響力を維持することが最大で、今回の場合は大平首相を死ぬまで追い詰めたとも言える福田赴夫や中曽根康弘が次の表舞台に出るわけにもいかず、田中と大平のつなぎ役をしていた鈴木善行が選ばれたのは、本人にとっては正しく青天の霹靂みたいなことだと思いますけれど、自民党が椅子取りゲームに熱中し過ぎて人材が枯渇したという見方もできるかもありません。

鈴木善幸は元々社会党の人で、吉田茂の民主自由党に入って保守系の政治家になります。そうは言っても護憲主義がけっこう強いらしく、「アメリカとの同盟は軍事同盟ではない」という発言が議論を呼び、アメリカからも不審の目で見られるようになっていきます。冷戦の真っ最中ですから、そういったことには確かに敏感になるかも知れません。ただし、鈴木善行は日米安保は肯定する立場でもあり、要するに日本国憲法は個別的自衛権しか認めていないから、アメリカとの同盟を軍事同盟であるとは認めることはできないが、日米安保は肯定するという禅問答みたいなことを言いだしており、ほとんど言葉の綾みたいなもので、要するに現状の変更はしないのだからそれで良いではないかと言うこともできますが、社会党からは発言の矛盾は突かれるだけでなく、そんな細かい事はアメリカ人の知ったことではないので、「軍事同盟ではない」という言葉が一人歩きした感も否めません。

党内融和に図り、各派閥にポストをバランスよく分配するという手法をとったため、それまでの三木、福田、田中の時代に比べれば党内の抗争は静かになり、長期政権すら視野に入ってきましたが、鈴木善幸は自分の再選を否定し、中曽根康弘を後継者として推し、田中角栄のバックアップも得て、中曽根は総裁選に勝利します。政治家としての手腕がどうかとかはともかく、穏やかな良い人だったのではないかとは思えます。