台湾映画『台北カフェストーリー 第36個故事』の次々と実現する夢

人によって価値観は違います。ある人にとっては今ある生活リズムが大切です。ある人にとっては夢見る時間、想像を膨らませる時間が大切です。ある人にとっては愛、お金、モノ、地位や名誉、その他いろいろ。それぞれ大切なものが違います。

この映画の主人公は桂綸鎂です。会社を辞めて夢のカフェを開きます。センスの良い素敵なカフェです。台北には素敵なカフェが多いですが、多分、この映画に影響されてカフェを始めた人も多いのではと思います。

小さいカフェでも大きいカフェでも、自分の店を持てばそこは自分のお城、自分の王国です。独立開業にはそういう良さがあるのではと思います。しかし一方で、経営にはシビアな計算が必要です。カフェでコーヒーを出すためにはコーヒー豆を購入しなくてはいけません。それらにはすべてお金がかかります。それに見合った価格をつけなくてはいけません。更においしいものを客に提供するための技術的な問題も問われます。

だけれど、主人公はお金さえ貯金できればそれでいいという人生にはなんとなく納得できてはいません。主人公の妹がカフェで物々交換を始めます。モノには物語があり、とある物語を持つモノが、他の物語を担うモノと交換されます。お店の雰囲気はその時々にどんなモノがあるかによって変化せざるを得ませんが、誰がどんなモノを持ち込んで何を持ち帰るかはある意味では運任せ、考えようによっては夢があります。

ある旅行会社が「あなたのカフェに投資したい」と持ちかけてきます。主人公は35の都市へ向かう飛行機チケットとお店の何割かの権利の交換を提案し、成立します。物々交換を続けた結果、お店の一部分と飛行機チケットが交換されるというのはちょっとおもしろい展開とも思えます。

飛行機に乗って外国に行くのは楽しい経験です。知らない街へ出かけて土地の人と話をするのは得難い経験です。主人公は最初、会社で働き、次いでカフェを開くという夢を実現して、続いて世界を歩くという夢を実現したというわけです。次にどんな夢を持つようになり、どんな風にそれが実現されていくかは分かりませんが、この映画の面白さは、心の中で夢を育てていればそれは実現して行き、人生は次から次へ夢を叶えるものだという、そういう楽しいというか充実感とスリルのある人生観がベースにあることです。

侯孝賢がこの映画のプロデューサーです。彼の初期の監督作品『風櫃の少年』では、叶わぬ夢を抱きつつ現実に耐えて生きる若い男性の姿が描かれています。この映画は全く逆で、心の中に芽生えた夢が次々と叶っていく女性の姿が描かれます。おー、時代が変わったんだなと思います。もちろん芽生えた夢が次々と現実になる方が人生おもしろいに決まっています。男性よりも女性の方が夢を現実にしていくパワーがあるということなのかも知れません。女ってすげえ。と思いつつ、自分の人生もかくあれと思いますし、もしかしたらそんな風に生きられるかも知れないとこの映画を観るとふと思えてきます。いい気分になれる作品だなあと思います。

映像がきれいなので、そのおかげでも気分よく見れます。デジタルはさすがです。映像とカフェの雰囲気が良く合っています。



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台湾映画『遠い道のり 最遙遠的距離』の喪失の交錯

これまで台湾映画の中で、特に印象のいい、素敵な映画だと思います。台湾映画では珍しいパターンの映画かも知れません。過度に美化せず、過度に深刻にならず、登場人物たちの喪失感について想像する余地を観る側に与えてくれているようにも感じられます。大変好感が持てました。

主たる登場人物は3人で、一人は番組撮影などの音声のスタッフをしている人で、仕事を首になり、恋人にも立ち去られてしまい、台東地方へ傷心の旅に出ます。

もう一人は心療医で、少々歪んだ性格の持ち主ですが、妻から離婚を言い出され、ある日、仕事を放棄してやはり台東地方へとふらっと出かけてしまいます。

もう一人は広告会社で働く女性で、上司と不倫の関係にありますが、やはりある日仕事を放棄して台東地方へと放浪の旅に出かけます。

要するに3人とも今の生活に耐えきれなくなり、心の状態を調整する必要にかられて日常生活を放棄したわけです。台東地方の美しい自然と都会の生活に疲れた3人のコントラストがよく映えます。台東には一度行ったことがありますが、あの地方の自然には原始的なのにやわらかな感じの美しさがあると私は思います。

音声技術者の青年は旅先で自然の音を録音し、それを元彼女のところに送ります。そんなことをしてもどうなるわけでもないですが、そうせざるを得ないのです。しかし元彼女は既に引っ越していて、次にその部屋に引っ越してきたのが広告会社で働いていて上司と不倫関係になっている女性です。

彼女は時々送られてくる郵便物を自分宛ではないと知りつつ封筒を開けてしまい、音声を聴きます。美しい自然の音、鳥の鳴き声、波の音などが入っています。封筒からどこの宿に泊まっているかが分かり、彼女は職場を放棄して台東地方へと出かけ、差出人の宿や録音されたと思しき場所を捜し歩きます。

心療医の方は美人局に遭いますが、音声の青年に助けられ、二人は行動をともにします。医師はその職業的技術を生かして失意の青年にカウンセリングを行いますが、一方で彼自身を救う術を知りません。40ぐらいのいい大人の男が、少し精神が歪んでいて自分を持て余している感じがとてもいいです。何歳になっても自分を持て余してしまうのが人間なのかも知れません。やがて二人は別れてそれぞれの方角へと去って行きます。

女性は貯金がほぼ尽きた状態になってしまい、今さら職場に戻るわけにもいかず「さて、どうしたものか」と思いつつ海岸に辿り着きます。すぐ近くに音声の青年が歩いています。その後で二人が言葉を交わすかどうか、コミュニケーションを取るのかどうか、それともただの通りすがりで終わるのか、分からないまま映画は終わります。さりげないけれどドラマチックな終わり方で、いい余韻を残してくれます。

広告会社で働いている女性は桂綸鎂がやっています。この映画では押しつけがましくない、さりげない感じで好感がもてます。

三者三様に喪失と向き合う姿が描かれ、自分がその立場ならどう思うだろうかと考えさせられます。音楽が少なく、無駄に音がないために、時々挿入される音楽が印象深くなります。原住民の音楽も入っていて、音楽とダンスに優れていることはよく知られている人たちですから、そのドラマチックな音の響きも楽しむことができます。

台湾にはこんないい映画もあるのかと、静かな驚きを得ました。いい映画だと思います。

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周杰倫の監督主演映画『言えない秘密』は、台北のちょっといい感じの郊外になる淡水エリアの芸術学校が舞台になっています。

父親が同じ学校の音楽の教師で、周杰倫を自分の勤務する学校に転入させます。そしてそこで桂綸鎂と出会います。

二人はすぐに両想いになりますが、ある日を境に桂綸鎂が来なくなり、周杰倫は「なんで?なんで?」と煩悶します。父親と話し合うと、20年前に起きたできごとを話してくれます。当時から同じ学校で勤務していた父親は、ある女学生(桂綸鎂)が20年後にタイムスリップして出会った男性を好きになってしまったと打ち明けられるのです。周囲は桂綸鎂は精神に変調にきたしたと心配します。

そのタイムスリップの話が本当で、まさかその相手が自分の息子(周杰倫)だと想像もしていなかった父親は、桂綸鎂に会えなくなってすっかり落ち込んでしまった息子のことを心配します。

この父親がかっこいいです。香港の俳優さんです。黄秋生という人です。インファナルアフェアに出てます。音楽教師という役ですので、ピアノもうまい、ギターも弾ける、社交ダンスも知っています。それらは全て過去に私が挑戦して挫折したものばかりです。顔もいいし、そのようにギミックも使えるというのはとてもうらやましいです。男はやはり手が器用でなくてはいけません。私は不器用の典型ですが、手が器用で料理も楽器もできる男性が理想だと思っています(ああ、ため息)。20年前の再現映像はちょっと無理に若作りしてコントみたいになっていますが、そういうことは映画の愛嬌みたいなもので、工夫しているなあというところが面白いので、そこはそれでいいと思います。

全体としては周杰倫がどれだけナチュラルリア充かということを表現しているだけの映画と言ってもいいですが、周杰倫が好きな人にはたまらないでしょうし、桂綸鎂が好きな人も多いと思うので、どっちかが好きな人にとっては大丈夫な映画だと思います。個人的には桂綸鎂です。

最後は父親から20年前の出来事を話されて真相を知った周杰倫が古くなって破壊される校舎に入り込み、破壊作業に敢えてぶつかっていくことで、タイムスリップして桂綸鎂と再会します。むしろその後の方が心配ですが、物語はそのようにしてハッピーエンドを迎えます。

奇怪なハッピーエンドと言えば、奇怪なのですが、アジア映画はそういうのが多いです。むしろ韓国映画の方がもっと弾けた感じになっているようにも思えます。台湾映画は「実はあっけないことだった」というエンディングが多いですが、この映画では行けるところまで行こうよ、と言っている感じでちょっと異色かも知れません。香港映画は理路整然としたものが多くて分かりやすくて観やすいような気がします。

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この映画には三人の男女が登場します。一人はお金持ちの息子で顔がいいです。もう一人は普通です。もう一人はかわいくて勝ち気な女性です。

高校生の時、三人は親友です。時代は1980年代。戒厳令が解かれていない時代です。言論や表現の自由がなく、学生たちは自費で政治的メッセージを書いた雑誌を発行しますが、そういうことは厳しくしかられます。学生たちは一方で政治に関心がありますが、もう一方で恋愛に関心があります。男2人に女性1人ですから、実に曖昧な何とも言えない微妙な関係です。彼女はお金持ちの顔のいい息子と付き合います。残った普通の男性は置いていかれた感を拭えませんが、それでも3人の友情は続きます。女性の役は桂綸鎂がしています。個人的には台湾の女優さんではこの人が一番美人だと思います。個人的な見解です。

大学に入ったころ、台湾はいよいよ本格的に民主化していきます。学生たちが中正記念堂に集まり、議会の解散を求める座り込みのデモをします。日本の学生運動と同じく、ある種のトレンドみたいなものだったと思いますから、3人とも当然のように参加します。政治的な主張はともかく、やはり大学生は青春の時代です。恋愛も大切です。お金持ちの息子は桂綸鎂と付き合いながら、学生運動で知り合った他の女性とも付き合います。二股です。残された普通の男性はやはり置いていかれている感じです。ただ、桂綸鎂はこっちの普通の男性のことも好きみたいです。「なんなんだあんた」と思わなくもありませんが、金持ちの息子の方も二股していて、それでもつきあっていて、友情も続いていて、この辺りはちょっと理解できないと思わなくもありません。

やがて3人は大人になり、社会人になります。90年代後半で、台湾経済がいよいよ本格的に発展し始めたと言っていい時期と思います。都会的で、発展した台北が描かれます。台湾映画では台北を「都会」という記号で表現することが多いですが、都会を描くのは難しいと私はよく思います。都会はだいたい同じだからです。映画で「都会」をテーマにしようとすると、高級なレストランとか、びしっとおしゃれなスーツを着ている人とか、夜のお店でお酒を飲んで騒いでいる場面とか、そういうのが登場します。そういうのは見飽きてしまってどうでもいいです。そんなの描いておもしろいのかなあと個人的には疑問に思います。ただ、台湾映画では「大都会台北」は重要な要素なので、そういうのはよく出てきます(同じ意味で、田舎も素朴な農村とか雄大な自然とか見飽きていますので、もうちょっとひねらなくてはおもしろいと思えません。『失魂』は素朴なはずの田舎の老人が実はめちゃめちゃ恐かったので新鮮に思いました)。

お金持ちの息子は結婚して子どももいますが桂綸鎂とは不倫関係を続けています。かなりただれた感じで「なぜ俺はこんなただれたものを観ているのか」という疑問すら湧いてきましたが、一応、最後まで見ないといけません。桂綸鎂はお金持ちの男の子どもを妊娠します。しかも双子です。どうしようか、となりますが、お金持ちの息子は一緒に外国へ行こうと提案します。しかし、本気で今の家庭と生活を捨てるつもりはありません。そに気づいた桂綸鎂はもう一人の男性と一緒になり、男性は生まれて来た子どもを自分の子どもだという気持ちで育てます。うーん、なんかよくわからんけどこの男は偉い!と思える映画でした。

映像はフィルム感があっていいです。最近は大体デジタルです。デジタルはきれいですから、悪いとは全然思いませんが、フィルム感があるのもまたいいものだなあと思います。台湾ニューシネマの雰囲気を感じることができます。

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