シャア・アズナブル論考①‐若さゆえの過ち

機動戦士ガンダムは一方に於いてアムロとホワイトベースクルーの成長と団結の物語を描いているが、もう一方に於いてシャア・アズナブルの栄光と転落を描いている。特にテレビアニメ版では顕著だ。しかし、後にリリースされた映画版の影響力があまりに強いため、シャアは偶像化され、完璧な人間の見本のように扱われ、圧倒的な人気を誇るようになった。最近になって『シャアの日常』のようなギャグマンガが通用するようになったのも、シャアが神格化されている故であると言うことができるだろう。但し、そのようなシャアはテレビ版の本意にそぐうものではないということもまた重要な事実であるように思える。何回かに分けて、テレビ版ガンダムでのシャアはどのような存在として描かれているのかを私なりに考察してみたい。

まず、第一回の放送分なのだが、冒頭で宇宙空間を移動するザクが登場し、彼らはサイド7のスペースコロニーに入り込み、地球連邦のモビルスーツを発見し、上官のシャアの判断を待たずに攻撃を始める。突然危機に見舞われたサイド7の住民たちが逃げまどい、ホワイトベースへと非難してゆく中、機械操作の才能に恵まれた少年アムロはこっそりガンダムに搭乗し、使いこなし、ザクを返り討ちにする。計3体いるザクのうち2体はアムロのガンダムによって打ち取られ、残りの1体は脱出してシャアの待つムサイに帰還するのである。

で、この放送分の最後のセリフがシャアの有名な「認めたくないものだな。若さゆえの過ちというものを」だ。シャアはなぜこのようなセリフを吐かねばならなかったのだろうか。若さゆえに彼はどのような過ちを犯したというのだろうか。たとえば「デニムに新兵を抑えられんとはな」というセリフもあるが、これはシャアの指示を待たずに若いザクのパイロットであるジーンが先制攻撃を始めてしまい、同行していた先輩のデニムはジーンの独断専行を追認する形で戦闘に参加した結果、二人とも戦死してしまったことに対するシャアの感想のような一言なのだが、ここだけ見れば、シャアはこの二人の戦死について責任はない。命令無視をしたジーンと、命令無視を追認したデニムに責任がある。その後全40回以上にわたりシャアは敗北に敗北を重ねていくことになるのだが、この段階ではそれはまだ未来のことで、シャアはルウム戦役で輝かしい戦果を挙げたジオン軍のスーパースターだ。この段階で、シャアに落ち度など、ないように見える。にもかかわらず、繰り返しになるが、シャアは「若さゆえの過ち」を認めているのである。果たして何が落ち度だったのだろうか?

この疑問を解くカギが第一回放送分のシャアのセリフに込められている。サイド7でザクとアムロの乗るガンダムとの間で戦闘が始まったと知った時、シャアは「これは私が行くしかなそうだ」と副官のドレンにシャア本人が出撃するとの意思を示す。ジーンとドレンはそもそも偵察が任務なので、二人が引き返してくるのが筋なのだが、事態の収拾のために、どういうわけがシャアが現場へ出向くというのである。言うまでもないが地球連邦軍にご挨拶する義理はない。生きているザクに帰還命令を出し、シャア本人はムサイで待つのが筋なのだ。しかし、シャアは行くという。理由は簡単である。シャアは現場に行きたくなってしまったのである。うずうずしてしまい、現場のジーンとデニムに手柄を立てられるのが悔しいので、自分も手柄を立てに行こうとしているというわけだ。サッカーでシュートを入れたい少年と同じ心境なのである。

そもそも、シャアはゲリラ掃蕩作戦の帰りに、地球連邦のV作戦の存在をキャッチし、その秘密がサイド7にありそうだということで予定外の遠回りをしてサイド7に立ち寄っている。ゲリラ掃蕩を命じられていたシャアに、そのような遠回りをする義理はなかったのだが、敵のV作戦の存在を知ったとたん、うずうずしてしまい、スーパースターの味が忘れられず、ルウム戦役の夢よもう一度と思って、独自の判断で動いたということになる。要するに手柄が欲しくて独断専行したというわけだ。もうちょっと言えば、若きジーンと上官のシャアは同じ心理構造を持っていたということが分かる。二人の運命を分けたものは、ジーンが敵対した相手が連邦軍の技術の結晶であるガンダムであり、シャアが敵対した相手はまだ戦いに不慣れな連邦軍だったという違いくらいしか思い浮かばない。

これでだいたい今回述べたいことは述べたのだが、シャアは上官のドズルから命令されたわけでもないのに、手柄が欲しくてうずうずしてしまい、行かなくてもいいサイド7に行って、なんとザク2機を失い、パイロットを2人戦死させているのである。これがシャアをして「若さゆえの過ち」と言わしめた失敗である。

もちろん、これはシャアの失敗の序の口に過ぎない。今後シャアはガンダムとホワイトベースのために数多のモビルスーツとパイロットを失い、親友を失い、スパイを失い、戦場の盟友を失い、恋人を失い、プライドも失うことになる。気の毒なことこの上ないのだが、このシャアの転落がガンダムの裏テーマだと考えれば、ガンダムという作品理解を深めるために無視するわけにもいかないのである。当面はシャアについて記事を追加していくことを予定している。