ゴーン氏は日本に引き戻せるか?

いろいろな人から何度もこの質問を受けましたので、ここで答えておきたいと思います。

個人的にはゴーンさんを引き戻さなくても別にいいんじゃない?と思わなくもないですし、日本の自白偏重・人質司法は批判の対象にもなっていますから、ゴーンさんの主張にも一理なくもないように思います。そんな内容です。過去のアメリカ軍の犯罪者や三浦和義さんのことも例に挙げて言及しています。




ゴーン氏逃走と記者会見について‐ゴーンの正義、検察の正義、日本の正義、国際社会の正義‐正義とはっっっ

2019年末、保釈中のカルロス・ゴーン氏がレバノンに脱出したとするニュースは、多くの日本人に、これまた数多くの???を生み出させた。不可解なことが多すぎるし、突然過ぎもした。まず、ゴーン氏が保釈されているかどうかについてすら、我々は知らなかった。よほど注意してウオッチしない限り、一度逮捕された人物のその後のことなど、分からないままだ。ゴーン氏の保釈はメインストリームメディアによってそれなりに報道され、話題になってしかるべきだが、そのようなことはなかった。我々は知らなかった。従って、私の最初の感想は、あれ、あの人、保釈されてたんだ…というものだった。

次に、当然ながらどうやって国外に出たのかよく分からないということだ。関西空港でプライベートジェットに乗って出て行ったということは分かった。だが、そのプライベートジェットが誰のものかも分からないし、プライベートジェットだからといって、人やモノの出入りが甘くなるというのも、初耳だった。関空の仕事が甘いのか、入管の仕事が甘いのか、日本全体がそうなのか、或いは「関空のプライベートジェットに楽器の箱に入って乗り込んで脱出」という情報が不正確なのか、さっぱり分からない。

ゴーン氏がレバノンで開いた記者会見を途中まで見た。いつまで続く分からないものを延々と見ることはできないし、一応、引っかかるところはあったので、そこでブログの記事にしようと思い立ち、今、こうして書いている。ゴーン氏の発言で私がちょっと驚いたのは、「レバノン政府を攻撃する内容の発言は絶対にしない」と言い切ったことだ。レバノン政府とゴーン氏との間で、日本の司法へゴーン氏を引き渡さないとの合意がなされたことは確実だ。一方で、このような発言をするということは、ゴーン氏がレバノン政府を相当に頼りにしなければならない状況でもあるということを表している。金さえあればなんとかなるというものではなくて、やはり保護の約束が必要だとゴーン氏は考えている。そもそも日本が犯罪人引渡条約を結んでいるのは韓国とアメリカだけなので、ブラジルなりフランスなりに逃げても良さそうなものではあるが、彼は国際指名手配を恐れているのかも知れない。そうなった場合、ゴーン氏を守ることが国策になっているレバノン以外では、逮捕される可能性は否定しきれない。日本の司法に引き渡されずとも、代理処罰が適応される可能性は充分にある。フランスに入国して国際指名手配で逮捕され、フランスで代理処罰の裁判を受けるという可能性もあり得るとみて、ゴーン氏は慎重を期しているのだろう。もしかすると、残り人生をレバノンで過ごす決心もしているのかも知れない。レバノンにいる限り自由だというわけだ。

ゴーン氏の逃走の是非については意見が割れるだろう。ゴーン氏にはいろいろな言い分があるには違いないが、日本の司法が逮捕した以上、司法の手続きに従わないなんてひどい奴だ。という意見もあり得る。一方で、日本の司法は人質司法と呼ばれる面で悪名が高く、罪を認めなければ保釈が認められることは原則としてないという、他国ではみられない現象が存在することも否定できない。今、現在、たとえばロジャー・ストーンは保釈されているが、彼は無罪を勝ち取ろうと努力しているので、日本の司法の慣例から言えば保釈されない。このようなことは重大な人権侵害の可能性があるので、議論されなければならないところだ。ゴーン氏は東京拘置所での生活がいかに酷いものかも訴えていた。シャワーが週に2日しか利用できないと述べていた。私は知らないが、東京拘置所では入浴はどうやら週2日のようだ。これが事実の場合、やはり重大な人権侵害の可能性が高い。普通の懲役刑受刑者でも、或いは毎日入浴する権利がある可能性すらあるのに、未決囚で、まだ犯罪者と決まったわけでもない人が毎日入浴できないというのは、非常に深刻な問題だと私には思える。また、検察の逮捕事実についても、曖昧と言えばいいのか、複雑すぎると言えばいいのか、重箱の隅をつつきすぎていると言えばいいのか、一般的な社会通念では罪かどうかもちょっとはっきりしないような要素、訴因が多いように思える。

ゴーン氏の立場なら、司法によって人権侵害され、言いがかりで何十年も刑務所に入れられようとしていることへの強い抵抗があって当然だし、逃げるチャンスがあれば、逃げるだろうと、つい頷いてしまう。

東京地検特捜部の恣意的な捜査は以前から指摘されている。堀江貴文氏が実刑判決を受けたことに首をかしげる人は多いと思うし、私もその一人なのだが、なんというか、日本の中心に部外者が足を突っ込むと、そういうよく分からない形で失脚することが時々あるように思えてならない。繰り返しにはなるが、それがたとえばゴーン氏であり、堀江氏であり、江副氏であり、村田厚子さんのようなケース(大阪地検の事案ではあるが)も含まれてくるのではないだろうか。

おそらく、ゴーン氏を批判している人の方が多数派なので、こんなことをブログに書き残すと私も批判の対象になるかも知れないのだが、まあ、一応、自分にだけは正直に生きていたいと思い、ここに備忘の意味も含んで書き残しておきます。



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ゴーン氏の人権

ゴーン氏の逮捕後、勾留期限の延長と再逮捕の繰り返しみたいなことになっている。ゴーン氏からの保釈請求は今のところ認められていない。で、最初の逮捕の時に「50億の所得隠し」という派手な見出しで報道されたが、だんだん具体的なことが分かって来ると、引退後に受け取る予定として日産とゴーン氏との間で合意されたもので、今はまだ受け取っていないし、ゴーン氏がこっそり隠れてやっていたとかそういうことでもないということが分かってきた。

で、意見が分かれて来るところが、ゴーン氏は何を根拠に今も勾留されているのか、そもそもの逮捕事実が曖昧過ぎはしないのかという批判もあるようだ。ここは思案のしどころのように思える。

日本の刑事捜査ではまず身柄をとって自白させ、犯人しか知り得ない事実をつかみ、有罪に持ち込むという手法はよくとられる。被疑者を外界から遮断することで心理的に追い込み、言葉で追い詰め、場合によっては「認めたら帰れる」などの甘言や「かつ丼食うか?」などの利益誘導によって被疑者は落ちるという流れになる。完全に落ちれば完落ちで、横山秀夫さんの小説では【半落ち】という言葉が使われた。被疑者が部分的に嘘を残している時は半落ちというらしいのだが、捜査陣が有罪に持ち込むための自白以外は曖昧にされたり、創作される場合もあり得るので、多くの場合が実は半落ちなのではないかとも思える。この捜査手法の有効なところは、悪いことをしてしまった人間を精神的に追い詰めて法の正義を実現できるところだが、たとえば被疑者の腹が据わっていて自白するようなタイプではない場合とか、本当に悪いことをしていない場合のデメリットも大きい。

外界から遮断された状態だと、無実の人でも捜査員から繰り返し、「君はこのようにして、あーやって、こーして、犯罪を犯したんだろ?」と言われ続けると、だんだんわけがわからなくなってきて自白してしまう例は時々あると言われている。そのため、取り敢えず身柄をとって自白に持ち込むという手法は被疑者の心理状態や人間性、性格によって結果が左右されてしまう可能性があり、通常、問題視される。特に最近は捜査の可視化と関わって問題視されることが多い。自白以外の証拠によって有罪に持ち込むことがより推奨され、理想的だと考えられている。自白以外の証拠が薄弱な状態で自白を得るために身柄を拘束することは人権にも関わる。

で、ゴーン氏に戻るが、ゴーン氏逮捕の場合、最初の逮捕の事実が曖昧なことを考えると、やや人権の問題に抵触するのではないかという気がしなくもないし、敏感な人なら抵触していると判断してもおかしくないように思える。このような内容で本当に有罪に持ち込めるのだろうかと首をかしげる人もいるのではないだろうか。リーク合戦による情報の混雑もあり、今はなんだか見通しが立たないように思える。

もっとも、ゴーン氏は「フランスで暮らしたい。裁判が始まったら日本に戻って来る」と言っていたらしいので、逃走の恐れありとみなされても仕方のないところではある。ゴーン氏の本音が「東洋の非文明的な刑事訴訟手続きに潰されるくらいならフランスに逃げよう」だとしても不思議ではない。日本で暮らすことを前提に保釈されるかどうかが今後の焦点になるが、しばらくは様子を見るしかないわけですが。