アマンダ・ノックスのケースについて考える

有名な事件なので、ここで詳しく述べる必要はないかも知れないが、ワシントン大学に入学した後にイタリアのペルージャへ留学したアマンダ・ノックスという女性の留学先でのルームメイトが惨殺された事件で、アマンダとそのボーイフレンドが起訴され、有罪判決を受けたものの、後に無罪になり、最高裁でも無罪が確定した事件で、未だに真犯人はアマンダ・ノックスなのではないかと考えている人も多いようなので、私も考えてみることにしてみた。

結論から言えば、アマンダ・ノックスは真犯人ではないと思う。以下にその理由を述べる。まず、彼女が真犯人だということを示す物的証拠がないという点が大きい。被害者のDNAが付着したナイフがアマンダのボーイフレンドの自宅のナイフから発見されたが、付着しているDNAの分量はごく僅かで、料理をする時に指を切る程度にすら至らないもので、致命傷を与えるに足る充分なものではなかったことが挙げられることと、その他多く採集されたDNAが検察の不手際により「汚染」されてしまっていると認定され、物理的な証拠が一切認められなかったということがある。

しかし、DNA検査は諸刃の剣でもある。検査方法によって違う結果が出る場合があることは、過去の裁判の歴史を見ると、わりとよくあることのように思えるし、おそらくは科学者の「腕」によっても検査結果が違ってくる恐れもあるため、DNAがよほど完璧な状態で保存され、絶対に間違いなく犯行時にその場にいて、犯行をすることによって付着したものだと言い切れるものでない限り、却って怪しい。むしろ、DNA検査が導入されたが故に、DNAによる犯行の説明が不十分だとの理由で釈放された「真犯人」は過去に大勢いるのではないかという疑問すら持ってしまうほどだ。

従って私はDNA鑑定の観点から、アマンダ・ノックスが真犯人ではないというわけではない。Netflixでアマンダ・ノックスのケースを担当した検察官のインタビューを見たが、彼は彼女の話す内容に信ぴょう性が低かったことやリアクションが怪しかったことから、犯人ではないかとの疑いを強めたと述べていたが、これは自ら自分が自白偏重主義者であり、「リアクションが怪しいと犯人」という先入観で捜査していたことをも告白しているのと同じであり、残念ながらその検察官を高く評価することはできない。また検察サイドはアマンダ・ノックスが複数人の男性とセックスパーティを行っており、そこに被害者が帰ってきたので参加するよう誘ったが拒否したので殺したという筋読みをしているが、わざわざ「セックスパーティへの参加の強要」という、どちらかと言えばあまり起きなさそうな出来事を犯行の動機に結び付けており、当日、セックスパーティがされていたかどうかすら証明されておらず、やはり検察の筋読みの甘さが気になってしまう。

ここまでで科学的な面と自白偏重・見込み捜査という捜査手法の問題から、アマンダ・ノックスのケースについて考えてみたが、続いて、唯一真犯人の一人だとされて有罪判決を受けたプエルトリコ系の男性について考えてみたい。この男性は、被害者の女性とある程度の仲だったと見られているが、彼は、彼がトイレに行っている間に反抗が行われ、戻ってみるとアマンダ・ノックスが逃走するシルエットが見えたと証言している。この証言の信用性は低い。Netflixのドキュメンタリーでみることができた当時の現場の映像を見れば、事件が起きた時、犯人と被害者は相当にひどく揉み合ったことが一目瞭然である。凄惨な血痕が部屋中に散らばっており、これは被害者が流血しながらも頑強に抵抗していたことを示すものだ。犯行は一瞬にして行われたのではなく、場合によっては何時間にもわたる壮絶な戦いになっていたかも知れない。その時に「トイレに行っていたので犯行の瞬間は見ていないが、戻ってみるとアマンダ・ノックスのシルエットが見えた」というのは普通では考えにくい。激しい殴り合いや揉み合いの音がある程度の長さ続いたのだから、すぐに現場に向かうことができるはずである。尚、この男性は現場に複数の指紋が発見されており、事件とのつながりを疑う向きは少ない。本人は現在も無実を主張しているとのことだ。私見だが、プエルトリコ系の男性は、マスメディアがアマンダ犯行説で熱を帯びている様子を知り、アマンダに犯行をなすりつけようとしたのではないだろうか。「アマンダが犯行をしているところを見た」とまで言ってしまうと公判で再現しなければならなくなるため、かえって不都合であり、アマンダが逃げる後ろ姿を見たで押し通そうとしたのではないかという気がする。

アマンダ・ノックスは事件が起きた時はボーイフレンドと過ごしていたという。これは第三者が見ていなければアリバイとしては弱いが、若い男女が誰にも知られずに部屋で過ごすというのは普通にあることなので、不自然さを疑わなければならないような類のこととも思えない。

以上なことを総合的に勘案すると、事件解決を焦った司法当局が「セックスパーティに参加しないので殺した」という強引な設定を作り出し、アマンダに執拗に手を変え品を変えて質問をし、やはり強引に矛盾点を作り出し、「アマンダの証言は信用できないから黒」ということに仕立て上げようとしたのではないかという気がしてならない。

直接証拠も状況証拠も不十分なのだから、無罪が妥当ではないだろうか。私見です。