中産階級がやたら重視され保護する流れになる理由にはどのようなものが考えられますか?貧富の差が拡大してレアになっているから?

中産階級とは、衣食住に困らず医療も充分に受けられる普通の人々のことを指しますから、医者や弁護士などの社会的地位がなくとも幸福度は充分に高い階層であると言えると思います。中世の王侯貴族より現代の中産階級の方が幸せだと言われるくらいに発展した現代社会の恩恵を実感できる普通の人たちですよね。ですから、そういう人たちがたくさんいることは素晴らしいことだと思います。貧富の差が拡大したことによりレアになっているのももちろん重要なファクターだと思います。

但し、分厚い中産階級が形成されるにはわりとハードルの高い条件をクリアしなければならないということも私は指摘せざるを得ないと思います。それは普通の人が中世の王侯貴族並に満足して暮らすためには、それに相応しい経済成長が社会全体で実現されていなければならないということです。そもそも「普通の人」はそんなに凄い仕事はできません。言われたことを真面目にこなす小市民です。そのような人たちがガッツリ楽しく生きられるということは、企業や国家が手厚く分配しても尚余る富を得ている時に限られます。

アメリカでは第二次世界大戦後に分厚い中産階級が登場し、戦争から帰ってきた若者たちが結婚して車と家を持ち、自分の事業を展開し、田舎なら農場を経営して幸せな家族を築くというモデルを確立しました。人はそれをアメリカンドリームと呼んだりしました。ベトナム戦争後、アメリカの国力の相対的低下に伴い中産階級はしぼみ、今やアメリカの田舎の方はヘル・アメリカになっているとよく言われます。私がアメリカに留学した経験からもそれは分かります。デトロイトは巨大な廃墟でした。

で、日本の場合、それは70年代から80年代に形成されていきました。田中角栄が気前よく公共投資にお金を使ったので、隅々までお金がいきわたり、誰もが自分を中産階級だと感じることができる、人類の歴史でも極めて珍しいであろう現象が起きました。今では信じられないことですが、当時はシンガポールや香港の人たちが一度は日本を旅行したいが日本の物価は高く、うちにそんな金があるわけないと嘆いていたような時代です。90年代以降、バブルの崩壊と増税により、中産階級はしぼみ始め、もはや見る影もなくなりつつあります。

これはマクロ的な産業政策と税制が間違っていたからなのであって、小泉・竹中時代の雇用政策に要因を求めることは正しくありません。経済成長が充分に確保されていれば、非正規雇用で時給5000円のようなことが実現でき、拘束時間の長すぎる正規雇用はちょっと…という雰囲気になっても全くおかしくなかったのです。

そして今、韓国台湾で中産階級が形成され、世界を席巻しています。

(注意点ですが、世界を席巻する中国人旅行者は、中国の国内では富裕層です。シンガポールは金持ちは多いですが、差別的搾取構造の上に存在する特権階級です。香港は内戦かと思うようなデモが起きて行こうは当面、判断を保留せざるを得ません)

韓国・台湾は経済成長が著しいため、手厚く分配することができるからです。

ですから、日本で中産階級を復活させるには、手厚く分配できるだけの経済発展が必要になります。もしここの部分を無視して、雇用形態だけで解決しようとすると、給料の薄い正社員と、使い捨てられる非正規雇用に溢れるヘル・ジャパンになるというか、今の日本はそうなっているわけです。

というようなわけでして、ご質問にきちんと答えることができたかどうか、長々となってしまいましたが、以上です。



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