「関西帝国」の復活を感じた件

桜の季節になったものですから、思い切って鎌倉、京都、奈良、更に大阪を歩きまわってみることにしました。歩くのが好きなものですから関東と関西の景勝地を一挙に見てしまおうという、わりと無駄に労力を使うことをしてみたわけです。鎌倉はともかくとして、関西をこれほどじっくりと歩いたのは10年ぶりくらいのことです。

気づいたのは関西地方はやはり値打ちのある凄い地域だということでした。かつて故中島らもさんが『西方冗土‐カンサイ帝国の栄光と衰退』で、関西地方の凋落ぶりを相当に嘆いていました。というのも、関西地方は確かに人口も多く、経済規模も大きいのですが、人の動態のようなものを見ると地縁血縁でだいたいのことが決まっていく田舎体質であり、東京への対抗意識は強いものの、東京に負けていることは分かっていて、しかしそれを認めようとせず、「関西の方がうどんがおいしい」という何の役にも立たない慰めを並べ立てて自己変革しようとしないというのがらもさんの持論であったと理解しています。

さて、今回改めて関西地方をよくよく歩いてみて、神社仏閣の見事さには目を見張るものがありました。これだけの世界遺産級の建築物が集中している地域というのは世界的にも珍しいのではないでしょうか。驚いたのは観光客の多さです。もちろん、10年前にも関西地方の観光客は多かったですが、桁が違うという印象です。着物レンタルが流行していますから、外国人の観光客が大勢、和服姿で歩いています。中国人や韓国人はもちろんですが、白人の姿も目立ちます。確かにレンタル用の着物は化学繊維でちょっと安っぽいですが、そもそも凋落する一方だった和服産業はこれでそれなりに潤っているはずです。

特に驚いたのは奈良です。以前に奈良を訪問した際には観光客はいるものの全体的にまばらであり、マニアが敢えて訪れる観光地といった印象が強いものでした。ところがどっこい、今回訪れてみると観光客がいるわいるわ、鹿にせんべいをあげるという奈良独特の体験型観光が世界の観光客に受けているらしく、国籍問わず中国人もアメリカ人もフランス人も鹿せんべいを買っています。また、個人的には奈良市街地から東のエリア、興福寺、東大寺、界隈の立派さ、見事さに感嘆せざるを得ませんでした。1000年以上も前に相当な都市整備が行われたということの斬新さのようなものを実感させられたというわけです。商店街も歩いてみましたが、10年前はゲームセンターかマニア向けの古美術の店くらいしかなかったのが、観光客向けのレストラン、ショップが立ち並び、全体に歩いている人のボリュームがぐぐっと上がっています。奈良を歩いた時、原則全員関西弁だったのが、行きかう人の話す言葉に慎重に耳を傾けてみたところ、標準語を話す人の数もなかなかなもので、かつてマニア向け地方都市だった奈良が、国際観光都市に大きく飛躍していると結論せざるを得ませんでした。

大阪は10年前とさほど印象は変わりませんでしたが、より観光客向けにカスタマイズされている感が強かったです。関西は世界の観光客を集めることで生き延びると腹をくくったと私には感じられました。考えてみれば、現代的でクールな都会的な雰囲気を大阪で味わい、ちょっと足を延ばせば世界遺産級の建築物が密集している京都があり、鹿にせんべいを食わせることができる奈良があるという意味で一回の訪日で日本のハイライトみたいなところをぐっと体験できる関西地方は観光地としては非常に恵まれた地域なのは当然のことです。以前勤めていた会社で「関西地方はもはや復興不可能なのではないか」と言っている人もいましたが。そんなことは全然ありません。世界に対する集客力という点では、関東が大都会東京+その延長線上みたいな横浜、ちょっと歴史ある鎌倉というラインナップなのに対して、大都会大阪+京都・奈良というラインナップの方が魅力的なはずです。高層ビルを見たいという人には東京よりも上海やドバイの方が魅力的に映る可能性もあり、東京ディズニーランドが無敵の集客力を誇っている時代がありましたが、今や上海にも香港にもディズニーランドがある時代で、希少性という点で相対的に凋落の兆しを見せています。一方で大阪のUSJはハリーポッターが大うけしているらしく、最近の関西は盛り上がっているらしいと聞いてはいましたが、なるほどこれは本物の波が来ていると大いに納得できました。京都・奈良の建築物の価値は半永久的に認められるでしょうから、長い目で見ると関西地方はなかなかに恵まれているわけで、その真価を発揮していると言ってもいいかも知れません。このように関西の観光産業が発展した理由としては、一つにアジア周辺地域の経済発展を無視することはできません。韓国や中国、台湾の人たちが豊かになり、ヨーロッパやアメリカの人たちよりは日本に対する知識が豊富ですから、日本へ旅行するなら関西をという発想に至りやすいのだろうと思います。もう一つの要因として関西空港の整備が進みLCCの受け入れが容易になったということもあるようです。つい最近まで関西はもうだめだと言われていましたが、ところがどっこい大復活しており、これは日本人全体にとって好ましい現象と思えます。

あと、付け足しになりますが、奈良を歩いて感じたのは、奈良が里として整備された地域であるということでした。車窓から見た印象ではあるのですが、関東地方は人の密集している地域か森林もしくは丘陵地帯なのに対し、関西地方の平地では人がまんべんなく分布して暮らしており、民家と農地がある程度均等に広がっています。自然と人間の開発が一体化した「里」が成立しているわけです。弥生時代からクールな産業であった農業を徹底して推し進めた結果の地域開発の結実と受け取ることもできますから、私はその点でも関西の底力のようなものについて考えざるを得ませんでした。

関西って凄いのね。



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