とある情報機関の発行していた機関紙の昭和14年8月21日付の号では、当該情報機関が製作した記録映画『興亜の華』を紹介する記事が掲載されていましたので、紹介したいと思います。記事に曰く
本映画は支那派遣軍からの依頼によって広東訪日婦人団の一行が状況の途次台湾に立ち寄った際の観察見学等の状況を、総督府情報部が映画に収録したものであって日華親善の促進と廣く台湾の文化、産業、特に皇民化運動の実情を合わせて紹介したものである。(略)この皇化潤ふ台湾の麗はしい姿は対内、外の宣伝材料として最も効果的なものである。尚本映画は広東語を録音してあり、全編優美な録音によって行動が運ばれてゐるが南支方面各地に於て映写されると同時に島内に於ても公開される予定である
とのことです。この記事から言えることは、近衛文麿の「国民政府を相手とせず」の方針通り、汪兆銘政権を正式な中国の政権として認め、それに従う人々とはたとえば広東の女性たちが日本を訪問したりするように、「日華親善」が進んでいることをアピールしたいという狙いがあったということだと思います。
当該の号では、台湾在住華僑の国防献金を賛美したり、台湾に留学してがんばっている中国人の学生を紹介したりと日華友好のアピールに力を入れています。敵は蒋介石であって、中国人ではないというわけです。
ついでに言うと、当該の号では高砂族の身体検査が進んでいるという記事(台湾原住民の運動神経がなみなみならぬものであることに当局は注目していたわけですね)、皇民化を進めるために各地の中華風のお寺を日本風のものに変えて、きちんと仏教を教える講話会を開くなどの記事も載せられています。
驚くべきは最後のページで事変国債販促記事が載っており、日の丸と五色旗(汪兆銘政権の旗)が並んで描かれ中国人風の顔つきをした男の子がその両方の旗を笑顔で持ち上げる絵が描かれていることです。汪兆銘政権支配地域の中国人にも国債を買ってもらおうというわけです。国債を濫発すれば通貨はその価値が下がります。ですから、物資はインフレに転じます。しかも鉄や石油のような軍需品は輸入するしかありませんから、如何に国債を販売しようとも円の暴落により集めた分は吹っ飛んでしまいます。当局は民間物資を統制することによって軍需物資の不足を補おうとしましたが、結果としては経済のアンダーグラウンド化、いわゆるヤミ市化が進み、更なる物資不足へ陥るという悪循環に陥っていたことをそれらの記事から垣間見ることができます。政府は金の保有量を高めようと民間に金を政府に売却することを奨励しますが、金を維持することによって円の信用を何とか支えたいと考えていたに違いなく、ついでに言うと、太平洋戦争中は金の先物取引で戦費を米ドルで調達するというちょっとした離れ業までやっています。
その後の日本帝国の敗戦を知る我々としては、ちょっと涙ぐましい努力のようにも思えてきます。
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