とある情報機関が発行していた機関紙の昭和13年12月11日付の号では「抗日華僑を調査」という記事が掲載されています。基本的にこの情報機関は華僑の動向の調査に力を入れており、毎号、華僑情報を載せているのですが、大抵の場合、在日華僑または植民地の華僑は帝国に対する愛情があって、国防献金もしていて素晴らしいという持ち上げるスタイルで記事を書いているものの、在外華僑に関しては相当に厳しい目を向けており、気を付けろみたいなことを書いています。ぶっちゃけ帝国の外の調略戦争みたいな部分では日本はぼろ負けしているので、情報機関が得ている情報はそれなりに正しいとも思うのですが、大抵の場合、状況は改善しつつあるというような結論に達していて、それってちょっと考えが甘いのでは?と思う記事が多いです。ですが、今回の場合はちょっとスタンスが違いますので、紹介してみたいと思います。
抗日華僑を調査
海外各地に在留する華僑有力者はその郷里たる広東、福建に財産を有する者が多いがこれら華僑中には海外にあって抗日運動を指導しつつあるのも亦少なくない。これらは広義の解釈により日本に敵対してゐるものと認められるもので日本当局者中にはこれら抗日運動家の財産は敵産と認めてこれを没収すべきであると主張するもの多く既に海外調査機関に調査を命じたと云はれる。
とあります。「敵産と認めてこれを没収するべきであると主張するものが多」いとなっていますが、まず間違いなく当該情報機関の主張と考えていいと思いますから、海外調査機関に調査を命じたと「云はれる」としているのも、記事の体裁としてそうしてあるだけで、実際には既に当該情報機関からおそらくは一旦、内閣官房あたりに上げて各部署にお達しが言ったものと推測できます。広東地方を占領したばかりの時期ですから、広東の資産家の資産を没収せよというわけです。一つには確かに抗日に対する対抗装置という面もあったと思いますが、もう一つはやはり戦費調達の一環だったのではないかと思います。当該機関紙を読んでいると毎回、戦費が必ず話題に挙げられています。
当該記事で、もう一つ、考えさせられたのは、アメリカ人の記者が取材のために広東に赴いたところ、そこは焦土であったということです。当該記者は、敵の焦土作戦によって市街が破壊されたと述べていますが、ここは想像になりますが、中国側では日本軍による破壊という風に説明されているのではないかと思います。これはアメリカ人の記者によるラジオ放送を日本語に翻訳して掲載したものという体裁になっていますが、もし嘘が書かれてあったとしても私にはその真偽を確かめる手段がありません。また、仮にこの放送が事実であったとしても他に多くの日本批判の放送があったとして、それを当該情報部が無視している可能性も十分にありますが、手元の資料ではそこまで検証することができません。
ロシアのように領土の広い国が焦土作戦をするのは常套とも言えますから、中国のように広い国でも焦土作戦が行われたとして何ら不思議はありません。ただ、本当に焦土作戦が行われたのか、それとも日本軍による破壊だったのかは永遠の謎として残るのではないかと思います。私が読んでいる資料では一貫して日本軍は一般市民に対して寛容であるとの立場で記事が書かれていますが、そのような記事そのものがプロパガンダであったかも知れず、読めば読むほど、考えれば考えるほど、悩ましくなってきます。
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