昭和史9‐日中戦争とフィリピン

日本帝国時代のとある情報機関の発行した機関紙の昭和12年12月11日付の号ではフィリピンの情勢に触れられています。主たる内容としては、フィリピンに於ける中国人と日本人との関係性、及びフィリピン人の日中戦争に関する意見のようなものが紹介されています。曰く、日本人と中国人は敵国同士なので、互いに警戒はしているし、相互の商取引に減額はみられるけれども必ずしも顕著なものとは言えないとしています。一方で、フィリピン人は日中戦争についてどう思っているのかというと、

比島人の中には今次事変の真の原因を理解せず「他国の領土内に於て戦争行為を為すことが正常ではない」との観念が支配的であって、従って比島人には「日本恐るべし」「支那には同情される」との意見を有してゐる者が多いやうに見受けられる

としています。現代人の感覚から言えば、そりゃそうだと思えなくもありません。個人的には日本がわざわざ中国大陸の奥地まで戦争に行かなくてはならない理由があったとは思えないからです。しかし、当該記事では近く「南京陥落のビッグ・ニュースがもたらされる」だろうから、フィリピン人も驚くに違いないというようなことが書かれてあり、大変に強気であることがわかります。一方で、フィリピン人の対日感情を気にする程度に、やはり当局者が不安を感じていたということも言えるかも知れません。

もう一つ興味深いと思ったのは、当該の号で植民地の「青年総動員」の必要を訴えていることで、そこでは1、尊皇愛国精神の協調、2、皇民化運動の徹底、3、時局認識の正確徹底、4、愛国奉公精神の強化 5、銃後守護の充実並軍需物資の生産拡充、6、非国民的言動の徹底排斥の方針が示されています。皇民化をよほど焦っていることがわかるほか、3の時局認識の性格徹底というところを見ると、「日本が正義でしかも日本は戦争に勝ちつつあるのだ」ということを教え込みたいという強い願望が込められていることがわかります。同時に、6、非国民的言動の徹底排斥という文言からは、植民地の人々がそれでも帝国への忠誠心を持たないのではないかという不安も併せ持っていたことも読み取れるのではないかと思います。そのための訓練、具体的にはいろいろと講座を持って「教育」するということですから、そこまでやらなくてはいけなかったあたりに、やはり当時の不安と焦りを感じずにはいられません。「訓練」の内容には軍歌を歌わせるというのもあったようです。

今回の号で南京攻略戦を派手に書き立てるのかと想像していましたが、南京陥落はもうちょっと後になるようです。次号、そこに触れることになるかも知れません。

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