昭和史4‐国民総動員と皇民化

日本帝国のとある情報機関の発行物の昭和12年10月21日付の機関紙では、台湾に於ける皇民化の成功をうたいあげる当局関係者の演説の概要のようなものが掲載されているのが見つかりましたので、ここで紹介したいと思います。

演説者は森岡総務長官(おそらくは台湾総督府の総務長官)で、演説の題名は「時局下の台湾」となっています。曰く、内地では知られていないが、台湾人の軍務参加希望者は多く、その情熱は強いもので、大変に頼もしい、国民総動員の精神が発揮されている。とするもので、大変に好ましいことである。日本と中国が全面的な戦争になったのは今回が初めてだが、台湾人には福建語、広東語に精通している者が多く大変に役に立っている。台湾人だけでなく、いわゆる高砂族も皇民化が進んでおり、最近は戦費をお国に納めるために楽しみの晩酌を節約しておりまことに結構。霧社事件で亡くなった警察官の息子さんが徴兵適齢期に入り、見事に出征することになり、母親は息子が「皇国に報いる機会を得たことを涙を流して喜んで居る」という美談まで持ち出しています。

この内容が果たしてどの層に向けられたのかはまだ判然とはしないのですが、内容が明らかに支配者の視線で語られていて、台湾のことを論じるにしても完全に日本人目線ですから、植民地の人たちに向けたものではないことは明らかと言えるのではないかと思います。この演説ではむすびのところで「今回の事変(日中戦争)を契機といたしまして全島民混然一体となって皇民たらしむること」を期待するとしています。皇民化運動が平然とかつ正義として語られていたことの一次資料を読む思いで、なかなかに興味深いです。

当該雑誌では後半で、高砂族から軍夫志願が殺到していることや、やはり高砂族から皇軍慰問金が拠出されているという美談が紹介されており、日本人と植民地人が挙国一致で戦争に対応しようとしていることが宣伝されています。果たしてどこまでが本気でどこからがやらせなのか、虚々実々で、そこを紐解くことは現状では難しいのですが、続けていけばまた何かが見えてくるかも知れません。

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