トランプ大統領が、自分の裁量でやれる大統領令なるものを濫発し、その中にはメキシコとの国境の壁建設や特定の属性の人の移民制限などを含んでおり、TPPからの離脱は賛否あれ、まあ、政治判断と言えますが、それ以外の部分ではやはりちょっとヤバいのではないかという気がしてきます。
この大統領令に則り、数百人の人が空港で足止めをされたということなのですが、そんなことをして大丈夫か…人間性に対する重大な挑戦となってしまわないのか…と見ている側も心配になってきます。イスラム圏でのトランプさんへの不評はもとより、メキシコでもアメリカ製品の不買運動が起きているらしく、そのうえ、これは関係ないかも知れないですが、パナソニックの掃除機部門がアメリカから撤退するという話まで出ています。
もし、人口の比率のようなものを考えた場合、空港で足止めされた人の数は、母数に対して決して大きい比率を占めることはありません。しかし、その事実によって自尊心を傷つけられる人の数10億人を超えるものになるはずです。その人たちがトランプ大統領とアメリカに対して遺恨を持つという流れになっていますので、事態は想像するよりも遥かに深刻なものだと言えるかも知れません。
ソクーロフ監督は昭和天皇を描いた『太陽』で、日本人がアメリカと戦争することを決心した理由の一つに排日移民法があったと示唆しています。これは『昭和天皇独白録』をその根拠にしていると思われます。日本人でアメリカに移民したいと思っていた人は日本の総人口と比べれば決して多数ではありません。ほんのごく一部と言っていいかも知れません。しかし、自尊心を傷つけられたという無念さのようなものは、日本社会で共有されたと見てもいいように思えます。日本がアメリカと戦争したことが正しいとは思いませんが、自尊心を傷つけられるというのは、戦争を決心させる大きな要素だということは否定できないのではないかと思えます。
まさかこれですぐに新しい戦争が起きるとは思いませんし、今までも散々戦争が行われてきたことを思えば、戦争なんかやってほしくないですが、戦争はどちらか一方が決心すれば起きるということを考えれば(また、正規軍が交戦するという要件が現代は必要ないことも合わせて考えると)、トランプさんは実は危ない橋を渡っているのではないかという気がしてこなくもありません。
トランプさんの外交姿勢はまず絶対にぶれないものとして親イスラエルがあります。そのことに特に文句はありません。アメリカにはアメリカの事情があるでしょう。プーチンさんに接近する理由としては、ロシアと仲良く中東を分け合って、イスラエルの安定を目指すというシナリオがあるのかも知れません。その場合、アサドさんが追放されるのか、亡命するのか、それともちゃっかり居座るのかは分かりません。中国・台湾のことは有体に言えばどうでもいいと思っているはずで、日本には「応分の負担」を求めるものと推察します。一方で、トランプさんのスタッフには反ロシア、反中国の人が顔を揃えてさおり、はっきり言えばわりとバラバラというか、チームとしての体をなしているかどうかすら疑問に思えなくもありません。
トランプさんの大統領就任前は世界はあっけにとられつつ、その去就を見守るという印象でしたが、今はかなりはっきりとアゲインストの風が吹いているように思えます。トランプさんとしては中間選挙で勝たなくては再選まで行けないという思いがあるでしょうから、元々の支持者に応えつつ、アゲインストの風に対応することが迫られるわけですが、現状のところ、あまりいい知恵を持っているわけでもなさそうに見えます。私がヒラリークリントンさんだとすれば次の大統領選挙を目指して準備を始めると思います。中間選挙で勝てなさそうな場合、議会もトランプさんには嚙みつくでしょうから、予算を人質に取られるうえに重要な法律がそもそも提出できないという事態も起きないとは言えません。
世の中とにかくトランプ、トランプで、ちょっとトランプの話題はやりたくないとも思っていたのですが、どうも、注視せざるを得ないようです。
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