安倍晋三首相が年頭の記者会見に臨み、まず冒頭で小泉純一郎さんの時の郵政解散、宮澤喜一さんの時の55年体制崩壊の解散、更に佐藤栄作さんの時の解散に触れていたことはなかなか意味深なようにも思えます。新聞記者から衆議院の解散時期について質問され「今年に入って解散の二文字は全く考えていなかった。アベノミクスが最優先。予算の成立が最優先」と答えています。
では、以上の安倍首相の言葉から、解散の時期について考えてみたいと思います。まず第一に衆議院の解散について首相は嘘をついていいというのが日本の憲政の慣習になっています。また、衆議院の解散は首相の最大かつ絶対的な権能とも言えますので、首相に就任した人は誰でも常に衆議院の解散については考え続けるに違いありませんから「解散の二文字は全く考えていなかった」というのは100パーセント嘘と言ってもいいですが、慣習上全く問題ありません。
2018年まで解散がずれ込めば任期満了が近づきますのでスケジュール的に後がない解散になってしまい、麻生太郎さんが首相だった時のように苦しい立場に置かれてしまいます。安倍首相の支持率は上々の状態が維持されている昨今、敢えて不利な立場に追い込まれる来年まで解散しないということは考えにくく、年内には解散があると考えるのが妥当ではないかと思えます。
安倍首相としては弱い所を衝かれない状態で解散を打ちたいところと思いますが、今日の記者会見で「経済最優先」を首相が強調していたということは、予算を危機にさらしかねない年度内解散は考えていないとも受け取ることができます。今年早期の解散は「予算より党利党略が大事なのか」という批判を招きかねず、「経済最優先」の旗印を充分に振ることができなくなります。実際に株価などに微妙な影響を与えるでしょうから、年度内の解散というのはなさそうに思えます。
また、今年は国会で天皇陛下のご譲位に関する議論がなされなくてはならず、デリケートな問題ですので、この件についてけりが着くまでは解散のような緊張を強いる日程は組みたくないという心理も働くのではないかと想像することができます。仮に関連する法律が成立する前に解散を打てば「天皇陛下より党利党略が大事なのか」という批判を招きかねず、そこは避けたいはずです。またTPP法案のようにしらばっくれ強行採決というわけにもいかない案件ですので「議論を尽くす」と言い切れる状態にする必要があるでしょうから、日程的に何日までに法律を成立させるという性質のものではありません。充分に時間を取りたいはずです。そうすると今年前半から夏にかけては解散の日程は組みづらいということも言えそうです。
もう一つ、安倍首相の不安材料としては、若手議員の質に対して疑問符がついているということも払拭できないところと思えます。2012年当選組が風に乗っかって当選してきた人たちなので、よほどの風が吹かないと枕を並べて討ち死にということも考えられないわけではなく、石破茂さんが幹事長になった時に、相当締め付けようとしたようですが、有権者の目からは小学生を相手にしているような指導をしているようにも見え、かって良くなかった気がしないわけでもありません。追い込まれてはいないと言い張れるギリギリまで現状を維持し、風を吹かせて再選させるというシナリオを私だったら考えるかも知れません。
そういう風に考えると、天皇陛下のご譲位に関連する法律を成立させた後で、選挙で訴えることのできる目玉なり大義名分を用意して解散を打つということをざっくりと想定することが可能です。「経済優先」は「財政優先」ではありません。やはり前回の総選挙では消費税増税先送りを訴え、野党が消費税の増税を訴えるというなんかあんまり見たことのない選挙になりましたが、与党が増税の先送りなり減税なりを訴えるというのはなかなか鬼に金棒的な強さを発揮するものと考えることができます。となれば、次は2019年まで先延ばしされた消費増税を更に先送りするか、或いはこれ以上増税しないと法律を書き換えることを公約にするか、場合によっては消費税を5パーセントに戻すために新しく法律を作るというような公約で、どどーんと減税与党という看板で押し出してくるのではないかという気がしなくもありません。消費税を下げてほしいというのは個人的な願望も入ってはいますが、以上、2017年秋衆議院解散説でした。