光源氏の晩年

『源氏物語』で描かれる光源氏の晩年は必ずしも幸福なものとは言い難いものになっています。向かうところ敵なしだったはずの光源氏ですが、晩年期に入ると玉鬘にも相手にしてもらえません。

紫の上を説得し、女三の宮を妻として引き取りますが、頭中将の息子の柏木に取られてしまいます。もはや若くて美しい光源氏の全盛期は終わり、若い人たちへといろいろ譲らなくてはいけなくなっていきます。しかも、女三の宮は柏木の子どもを妊娠し、薫を出産しますが、光源氏は立場上、いろいろなことを知りつつも自分の子どもとして育てることになります。過去に自分と藤壺中宮との間で誕生した子どもが天皇の子どもとして育てられ即位したことの因果がめぐってきたわけです(一応、光源氏は皇統の男系男子ということになりますので、王朝交代みたいなことにはなりません。そこは作者も注意していたのだろうと想像します)。

光源氏は柏木に対して怒りを感じますが、息子の夕霧は柏木の親友で、どちらかと言えば柏木の味方をする感じです。葵上は光源氏が女三の宮を引き取ったことの心理的ショックで寝込んでしまい、そこには六条御息所の怨霊まで登場します。ここでも光源氏は過去の好き放題したことの因果を引き受けさせられているというところと思います。

紫の上が亡くなって、光源氏は人生の無常を感じ、出家し、やがて『雲隠れ』します(亡くなった)。

若いころに派手だったことを思えば寂しい晩年ですが、当時としては晩年期に出家して静かな生活を送ることは普通だったとも言えますので、生活に困ることになったわけでもなく、普通の晩年だったと言えなくもありません。

ただ、紫の上が亡くなったことで意気消沈し、出家→雲隠れへの展開に、紫の上が光源氏に対する絶対的な存在感を持っていたことが印象づけられ、そういう意味では他の女性たちとは別格の不動の存在ですから、紫の上が紫式部本人を投影したものだと理解するのが至極全うなように思えます。

光源氏は多くの女性にとっては「にくいけど、にくみきれない」素敵な男性であり、そういう複雑な綾が描かれるのが『源氏物語』ですので、寂しい晩年であったとしても、無残ということはありません。出家して亡くなるというところに潔さも見られます。1000年近く読まれ続けるだけあって、読めば読むほど、また、思い返せば思い返すほどよくできてるなあと思わずにはいられません。

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