光源氏と朧月夜



ある宮廷での宴が終わった夜、光源氏がちょっといい気分で歩いていると、可愛い感じの若い女の子がいるので、ついつい袖を引っ張ってみた相手が朧月夜です。

朧月夜ははじめのうちは「誰だこいつは」と思っていますが、声の感じから光源氏だと分かります。しかも光源氏は「深き夜のあはれを知るも 入る月のおぼろけならぬちぎりとぞ思ふ」といきなり「僕たちは運命なんだ。さあ、しましょうよ」と初対面から直球勝負してきます。朧月夜「光源氏が私の初めての人なら、ま、いっか」とあっさりと受け入れます。

後で光源氏は「あの可愛い女の人は誰だったんだろうなあ。家柄はいいだろうから、ばれるとちょっとやばいなあ」と自分の身を心配します。私には自分がかわいいだけの男にしか見えないのですが、紫式部が描きたかったのはまさしく「自分がかわいいだけの男」ではなかったかとも思います。

その後、関係が発覚し、光源氏が失脚する運命へとつながっていくのですが、わりとすぐに復活するので、長い長い源氏物語ですから、いわば物語のアクセントのようなものにも思えます。

注目したいのは源氏は平凡な女性には関心が湧かないという点です。宮中に出仕する女御は大勢いて、光源氏の立場ならいくらでも好きなだけ、ということになるのですが、光源氏は基本、やんごとなき立派なお家の深窓の姫君か、下級貴族の家の娘でも何らかのおもしろみがありそうな女性、または場合によっては老女だったりします(ただし、かなり妖艶な感じの)。

今で言えば、大企業の一般職の女性には関心がなくて、女子アナ、アイドル、社長令嬢、銀座クラブのママというような、一般的に言うところの高嶺の花を狙っていきます。読み進めれば、それが光源氏のある種の病癖なのだと紫式部は自覚的に書いていることに気づいてきます。

普通の男なら人生で上に挙げたような女性たちのうちの一人とでも結婚できれば生涯の功名みたいなものですが、いとも簡単に次々とというところに光源氏の凄味すら感じてきます。

紫式部の「男って…全く…」という嘆きも聴こえてきそうな気がしますが、同時に「それでもやっぱり光源氏みたいな男が好き。女なら分かるはず」という心の声も聴こえてこなくもありません。

源氏物語を読み進めると、光源氏の「俺がふられるわけがない」という揺るぎない自信も感じます。天皇の息子で神様級の美貌という無双にその自信は裏打ちされており、読めば読むほど「おー、役者が違うぜ」と唸るほかはなくなってきます。

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