まず、ヒラリーさんが赤いスーツを着て来たのに対してトランプ氏が青いネクタイということに気づきます。赤は戦闘色で、元気が良く、勢いがあるように見せたい時に着るものと言われていますが、ヒラリーさんの健康問題がいろいろと取り沙汰されていますので、むしろ「ああ、服を派手にしないといけなくらいに弱ってるのかな…」と勘ぐった味方をしてしまいますし、微かにですが、元気がないようにも見えました。失言に注意していたということもあるでしょうけれど、表情に輝きのようなものが感じられませんでした。トンンプ氏が青いネクタイなのは、お行儀を良さそうに見せようとしたのかなあという印象です。
トランプ氏の方はヒラリーさんよりは若干お行儀がよろしくなく、ヒラリーさんの発言中にも割って入ってきています。両者の話を聴いていると、ヒラリーさんがトランプさんの支持層を取り込みたいと考えていることが分かります。アメリカの一般的な民主党支持者、或いはいわゆるリベラルの人たちであれば、間違ってもトランプ氏に投票することはありません。ヒラリーさんは長年、リベラルの星だった人ですので、そこは心配要りません。むしろ、トランプ氏の岩盤みたいになっている白人中間層から低所得層に訴えかけようとしていることが感じられます。
ヒラリーさんは自分の父親は小さなビジネスをしていたということを話していましたが、「小さなビジネス」はアメリカの民主党の人々がよく語る典型的なアメリカンドリームです。贅沢がしたいわけではなくて、でも、写真屋さんとか、自動車販売とかなんでもいいんですが、誰にも命令されることなくやりたいことがやれて、日曜日は家族と教会に行き、他の休日はキャンプに出かけてマシュマロを焼いて食べる。そういう幸福の形を自分は目指すということです。これは割と低所得者層の人とかには、響くのではないかなあと感じなくもありません。経済財政政策の基本は「再分配」ですが、再分配をきちんとやれば、みんなが自分のアメリカンドリームを持てるというのが政策の根幹と言ってもいいと思います。「トランプさんはお父さんがお金持ちだったから、そういうささやかな幸せは理解できないし、アメリカ人のためにそれを実現したいとも思っていない」という皮肉もこもっています。
一方で、トランプ氏はロナルドレーガン以来の大減税を主張しました。減税すれば海外に行った企業が帰ってくる。企業が帰ってくれば雇用が増える。万々歳じゃないかというわけです。金持ちがもっと金持ちになって、ばんばんお金を使えばトリクルダウンでみんなに豊かさが流れていくという考えです。
果たして本当にトリクルダウンが起きるかどうかは論争のあるところです。ピケティはそんものは起きないと結論しています。一方で、減税すれば確かに企業が増えるでしょうから、職も増え、消費も増えて経済が回るというのも理解できます。トヨタ自動車が存在することで名古屋は大いに発展しています。トヨタの社員が集まり、関連会社も集まり、消費をして税金を納めて発展していく様子をトリクルダウンの具体例としても間違っていないようにも思います。
いずれにせよあと2回、トランプ氏は敵失に助けられて支持が回復している面があり、今回はメール問題への突っ込みもありましたが、残りの直接討論会でどんな内容でバトルするのか、見守りたいところです。