第26代天皇の継体天皇は実在したことで異論の出ない最初の天皇です。問題はこの人に天皇の称号が贈られる資格があったかどうかです。悪質な政権の簒奪者であったのか、それとも正統な継承者であったかどうかということに興味が湧いてきます。
ポイントとしては2つあるように思います。まず、第25代天皇の武烈天皇が亡くなった後、他に適切な継承者がいなかったというのはどういうことかということです。そしてもう一つは、継体天皇は第15代天皇の応神天皇の子孫で越前で五代にわたって暮らしていたということなのですが、そんなに血の遠い人に資格はあるのか、またはそもそも本当に応神天皇の子孫なのか、もうちょっと言うと応神天皇って本当にいたのか、更につっこめば応神天皇が実在したとしても本当に仲哀天皇の息子なのか。あたりの血統の正統性です。
武烈天皇については日本書紀で相当に悪い人物だったと記されています。妊婦のお腹を引き裂いて子どもを取り出させたなど、人間性に問題があった、ほとんどサイコパスみたいな人物だったとされています。一方の古事記にはそういうことは書かれていません。古事記はストーリー性重視で国内向け、日本書紀が編年体で外国向けだったとする考えに従うとすれば、古事記の読者に対してはそんな不体裁なことは告げられないけれど、日本書紀の読者、即ち外国人に対しては、懸命に継体天皇の系統の正統性を主張していると受け取ることが可能なように思います。
その武烈天皇ですが、男の子がいなかったので、越前にいる血のつながりの遠い人物を探してきて請うて継体天皇に即位してもらったということになってはいますが、もうちょっと血のつながりの濃い親戚とかも含んで一切適切な男性がいなかったというのは、不自然ではないかなあと思います。まとめて殺されたのでないか、ある種のクーデターが起きたのではないかという想像が働かないわけでもありません。
想像を逞しくするならば、眉輪王が安康天皇を殺害する事件を契機に有力豪族の葛城氏が雄略天皇によって滅ぼされますが、雄略天皇と武烈天皇の同一人物説があり、それをとるならば、雄略=武烈時代に天皇家と周辺豪族の抗争によって適切な人物が死に絶えてしまったという想像も不可能ではありません。ただ、雄略天皇は葛城氏に勝利していますので、武烈天皇の系統が絶えてしまったこととは矛盾します。この辺は推量するしかできませんので、いくらでも仮説をこねくり回すことはできますが、はっきりはしません。
葛城氏の滅亡後は蘇我氏が台頭し、推古天皇の時代に推古、聖徳太子、蘇我氏の連合政権みたいなものができていきますが、蘇我氏は渡来人の可能性が指摘されており、継体天皇の出身地の越前が朝鮮半島との主要な交易ルートの一つだったとすれば、継体・蘇我連合が大和朝廷を簒奪したという想像を働かせることも不可能ではないように思います。蘇我氏全盛の祖となった蘇我稲目は継体天皇の後の時代に出世していますので、矛盾はしません。物部氏は旧来から大和朝廷の内部にいた立場だったため、蘇我馬子によって滅ぼされることで旧来の勢力が最終的に一掃されたという筋書きも考えることができます。ほとんど想像ですので「お前の言っていることは穴だらけだ!」と言われたら素直に認めます。
以上のような想像を積み重ねてみると、雄略天皇の時代までは天皇家と葛城氏の協力関係によって維持されていた大和朝廷がある種の仲間割れを起こし、葛城氏は滅んだものの力の空白が生じてしまい、これをチャンスと見た蘇我氏が雄略またはその子孫を絶やし、継体を連れて来たということもできます。継体天皇は即位後20年間大和に入っていませんが、要するに地ならしができておらず、入れなかったと考えることができ、20年間、誰かが敵対する人を根絶やしにして、ようやく準備が整って大和に入ったと見ることもできます。実は即位についても後から先に即位していたということにしていて、本当は大和に入ってから即位できたのかも知れません。仮説です。仮説。想像です。
そうは言っても、もし、継体天皇が本当に応神天皇の子孫なのかどうかという疑問は残ります。これはもう議論のしようがありません。言い張られたら「そうですか」と言うしかありません。
とはいえ、継体天皇の皇后は雄略天皇の孫娘であり、武烈天皇の妹です。仮に雄略=武烈であったとしても、天皇家の血を引き継いでいる人ですので、もし女系がオッケーだとすれば、継体天皇がにせものだったとしても問題はありません。応神天皇が仲哀天皇の息子ではない可能性が残りますので、もしそうだとすればその子孫の雄略天皇の正統性にも疑問が呈されてくるため、雄略天皇の孫娘の正統性にも響いてはきますが、応神天皇を産んだ神功皇后が天皇家の外戚の息長氏の出身ですので、女系もオッケーということにすれば、どうにかつながります。個人的には天皇家が男系であるべきか女系であるべきか、両方オッケーかということについて意見はありません。以上は全て思考の体操です。