台湾中国合作映画『被偷走的那五年』の空白にしたい人生とその選択

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映像がきれいで、幸福な場面は本当にこの上なく幸福に、悲しい場面もまた本当にこれ以上ないというくらいに悲しい場面になっており、よくできたいい映画だと思います。

映画の冒頭はハネムーン中の幸せそうな主人公の若い男女、美男美女が楽しそうにしている様子です。「リア充か…うらやましいなあ」と思います。しかし次の場面では女性が病院で目覚めます。自分ではハネムーンに行ったところまでしか記憶がないですが、実はそれから5年経っており、交通事故で記憶喪失になった彼女はその間のできごとを思い出すことができません。少しずつ、糸を手繰るように証言を集め、夫が浮気をしていた可能性があったこと、そのことで自分が自暴自棄的になり、不倫をしてしまっていたことを思い出します。きっかけは交通事故ですが、そのことによって忘れたいこと、嫌な記憶を全部忘れてしまった、人生の空白にしたいものを本当に空白にしてしまったという感じです。夫以外の人とのアフェアが記憶に残っていない、自分だけがそれを覚えていないというのは『去年マリエンバートで』から想を得たのかも知れません。

謝罪する彼女の姿、泣きそうになりながら謝罪を受け入れ、やり直そうという夫の様子は大変にうまいです。繰り返しますが美男美女ですからとても絵になります。そうして再び二人は人生を歩むはずでしたが、事故の影響で脳が打撃を受けており、血栓ができているため、じょじょに脳が委縮する、認知症と同じ症状が彼女に現れてきます。手術すれば治るかも知れませんが、成功率は僅かに2割、むしろ進行を食い止めるために薬を飲んだり運動したり、本を読んだり日記を書いたりといったことを医者に薦められます。

ですが、彼女の症状は更に進行し、少しずつ日常生活に支障を来すようになっていきます。その中で彼はいいアイデアを思いつきます。一旦は離婚したものの、もう一度プロポーズするのです。そのプロポーズの場面の幸せそうなこと。職場や医療関係者、友人たちの暖かい祝福、演出が心を打ちます。カメラワークもうまいこともあり、厳しい事情を観客は理解していますから、その中での幸福であり、更に繰り返しますが美男美女ですのでぐっと心を打ちます。

夫の新しい人生をやり直すために彼女は夫に黙って手術を受ける決心をします。手術はおもわしい結果をもたらさず、彼女は首から下が完全に麻痺した状態になってしまいます。夫が毎日のように彼女の体を撫で、少しずつでも回復するようにと心をくだきますが、むしろ彼女の身体は少しずつ崩壊へと向かっていきます。前述のプロポーズの場面があまりに素敵なために、その対比がどうしても涙を誘わないわけにはいきません。結果的に二人は『カッコーの巣の上で』的な結末、或いは竹中直人さんの『くちづけ』的な結末を選びます。ここは賛否が分かれるところかも知れません。

映画の前半と後半が全然違う話になっているので、そこに若干のひっかかりが個人的には残りましたが、それ以外がとてもよくできていて感情移入でもできますので、いい映画だと思います。

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