台湾映画『軍中楽園』の冷戦と外省人

台湾映画の『軍中楽園』は1960年代前半の金門島が舞台です。中国と台湾の緊張関係が今よりも遥かに張りつめていた時代のことです。金門島は中国大陸のアモイまで僅か一キロ、国民党が台湾に渡って以来、台湾防衛のために守り抜いた最前線の拠点です。私は行ったことはないですが、金門島には今も中国側から打ち込まれた弾丸の破片があちこちで掘り出され、弾丸の破片を利用して作った包丁が鉄の精錬がいいので名産品になっているというそういう島です。

若い兵隊が金門島へ送られます。当時は徴兵制度が今よりもずっと厳しく、青春を犠牲にする、変な言い方ですが当時の台湾人にとっては大人になるための通過儀礼のような感じだったかも知れません。主人公の兵隊は泳ぎができないので最前線の兵士としては不向きとの烙印を押されてしまい、兵隊たちの相手をする「慰安所」の下働きの部署に入れられます。修理したり洗濯したり、場所が場所ですからもめ事があったら割って入ったりといった仕事をします。「兵隊」的な観点からすれば戦力外通告を受けたも同然ですからメンツはないですが、徴兵の間、とにかく拘束されるという前提に立てば、多分、楽な仕事と言っていいかも知れません。

そういう場所ですので、女性たちがたくさんいます。男ばかりの兵隊たちと花やいだ女性たちの対比が見事です。映像もきれいでよくできた映画だと思います。若干冗長な、或いは緩慢な気もしましたが、台湾映画はじっくりゆっくり画面を回すのが好きなので、そういう意味では展開の早い方の映画だと言えるようにも思います。驚くほど美しい女優さんがたくさん出てくるので、ちょっとうっとりしもします。

主人公の兵隊は外省人の上官と仲良くなります。蒋介石と一緒に台湾に渡ってきた古強者、歴戦の兵士です。中国語の発音も国民党の老兵らしいなまりかたをしていて、大変リアルにできています。主人公は本省人で、果たして当時の彼のような立場の人がここまで完璧に正しい北京語の発音ができたかという疑問はさておき、登場人物は話し方や発音でその背景が分かるというのは台湾映画を観る時の醍醐味の一つと言えるような気がします。

上官は大陸の故郷のことを話します。大陸に残してきたお母さんのことを話します。台湾に渡ってきた国民党の関係者の親族離散が語られます。金門島は残された冷戦の最前線であり、世界注視の的であり、しかし誰もが日常では忘れてしまっている悲しい場所とも言えます。外省人は悪い語られ方をされることが多く、その悲しみや苦しみを聞かされることは少ないですが、この映画ではそれを多いに語っています。私は別に誰の味方をするわけでもないですが、様々な視点を知るという意味では、そういう語りにも触れたいと思いますので、その点からも有意義な映画です。

この映画の主人公は勤務内容がそういうものですから、当然、女性たちとの接点も多く、プラトニックな関係も生まれてきます。徴兵で金門に行っていたという台湾人の男性に何人か会ったことがありますが、戦争が起きたら死ぬかも知れないわ、ただただ男だけの世界でいじめもあるわで大変だったらしいですから、たとえプラトニックとは言え、毎日女性たちの世話をしていた主人公の姿を見て「この野郎…」と思うかも知れません。ただ、現代の台湾は当時とは全然雰囲気が違いますから、この映画のような設定の方が台湾の観客の感性に合うということはあるかも知れないとも思います。いい映画ですので、日本でも公開されるなり字幕がついてDVDになるなりされてもいいと思います。



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