アメリカとメキシコの国境に巨大な壁を作るというのはトランプ氏が有権者に約束していたことの目玉の一つと言ってもいいと思います。ヒスパニックをさんざん悪く言い、罵りまくっていたと言っても過言ではないトランプ氏が、メキシコの大統領と会うということで、これは果たしてどのような展開になるのかと、私は注意を払っていたのですが、あっけないほど穏やかで、かつ仲の良さをアピールする、親善的な内容になったようです。
メキシコ大統領サイドからは、会見の最初の段階で「アメリカとの国境に壁を作る費用をメキシコが負担することは絶対にない」と発言したとしたとの情報が出ていますが、共同記者会見でトランプ氏は「誰が払うかについては話していない」と、注目点をあっさりかわした結果になっています。
おそらく、メキシコ側としては「うちは払わない」と断言したと言えるのに対し、トランプ氏としては「アメリカが払うとも言ってない(つまり誰が払うかは未定だ)」という、言葉の綾の問題になるのだろうと、双方都合よく解釈するということかも知れません。
ただ、トランプ氏は記者会見で「不法移民は犯罪の温床になるから認めない」としつつ、メキシコ系の人々はよく働くし、素晴らしい人たちと褒め称えています。「『不法』移民はダメ」というのは、まっとうな意見だと言えますし、そのうえでメキシコの人々を褒め称えているわけですから、ヒスパニック系の有権者の好感度は上がったのではないかと思います。このあたり、自分の目の前にいる人の聴きたい言葉を鋭く察知するトランプ氏の天性の勘のようなものが働いたように私には見えます。さすがと言えばさすがです。メキシコ人を批判的な目で見ている人の前ではメキシコ人を悪く言い、メキシコ人の前ではメキシコ人のことを称えるのです。八方美人大作戦なのです。
とはいえ、アメリカの保守系のトランプ氏支持者の中には「壁作るって言ったじゃん」と思う人がいるわけですから、今度は彼らにどう説明するのかという点が気になります。今まで通り、その場その場のレトリックで煙に巻き、おもしろいおじさんキャラで乗り切るつもりだと思いますが、トランプ氏は意外と行く先々で八方美人だということが知れ渡ると、コアな層から支持が離れてしまう恐れもあります。意外と難しい綱渡りをしているので、時々目測を外してしまい退役軍人から嫌われることを言ってしまったりするのです。
まあ、私、日本人ですから、アメリカの大統領選挙にそこまで注意を向ける必要も本来ないですし、ウオッチしたところで何もできないんですが、ここまでウオッチしてきたので、今後も継続して行く末を見守りたいと思います。
ヒラリーさんとの直接討論が見ものになることは間違いありません。不世出のスピーチの天才であるヒラリーさんと、異色のスピーチの鬼才と言えるトランプ氏のどちらが聴衆を味方につけるか。現状では支持率はヒラリーさんリードで、ヒラリーさんが勝つとは思いますが、もしかすると直接討論会では意外といい勝負になるかも知れません。
私個人はどちらを応援するとかそういうのはないです。念のため。