映画『樹海のふたり』と生きること

生きるってどういうことなのかを問いかける、観る側はそのことをどうしても考えざるを得なくなる映画です。

インパルスの板倉と堤下は制作会社から仕事をもらうフリーランスのディレクターです。富士の樹海に行き、自殺しようとする人を説得する企画を立てます。自ら命を絶とうとする人の事情は様々です。簡単に察することはできません。それに、その時に自殺を思いとどまらせることができたとしても、その人の抱える問題が解消するわけでもありません。更に言うと、今から死のうとする人を撮影するという企画にはどうしても悪趣味なにおいがします。しかし視聴率は稼げます。ディレクターの仕事ってきっとめちゃめちゃ大変だと思います。板倉はストイックな仕事人です。

取材する板倉と堤下にも人生があります。いろいろなことを抱えています。どちらもフリーランサーですから収入が安定しません。そして未来がどうなるのかも分かりません。板倉には奥さんと三人の家族がいます。奥さんは遠藤久美子です。年齢を重ねて遠藤久美子がすごい美人になっていて驚きます。それはそうとして、三人のお子さんのうち一人は自閉症で上手に学校に馴染んでいくことができません。一方、堤下は町の印刷工場の息子ですが、ウェブ時代になって印刷屋さんは仕事が激減し、お父さんも認知症ぽいです。

堤下がグルメ番組の制作に誘われ、堤下は板倉も誘いますが、板倉はその誘いを断ります。樹海の取材に没頭したいのです。別のADが一緒に行くことになりますが、「画像さえとれればいいじゃん」と言わんばかりののりが板倉は気に入りません。樹海はもっと重い場所なのです。ADを殴りつけ、ADはやめてしまいます。私はちょっと耳が痛いです。私もあんまり真面目な記者じゃありませんでした。写真さえとれて、適当なコメントさえとれればそれでいいやみたいなダメな記者でした。観ていて胸が痛みます。

自殺を思いとどまらせる過程でいろいろな人に出会います。ちゃんと新しい生活を始めることができる人がいます。いろいろ嘘をついて他人のお金をだまし取るような人もいます。嘘つきばっかりだなあという堤下に対し、板倉は何が本当かなんかどうでもいいじゃないかと返します。そうかも知れません。生きるか死ぬかの瀬戸際を見たとき、命の課題に相対する時、本当か嘘なんかどうでもいいかも知れません。生きていれば、それでいいじゃないかという心境になるかも知れません。

板倉の一番上の自閉症のお子さんに絵を描く才能があることが分かります。自閉症で凄い絵を描く人の話は何度か聞いたことがあります。この息子さんもそういう感じです。息子さんの個展を開きます。家族にささやかな希望の光がさし込んで来ます。

私はこの映画を観て、生きてるっていいなあ。生きてるってすごいことだなあ。自分は生きることが好きだ。食べたり眠ったり歩いたりすることが大好きだ。生きていてよかった。と素直に感じました。生きていると嫌なこともたくさんあります。もう死んでしまいたいと思うこともあります。でも、この映画を観ると、ああ、生きようという気持ちになれる気がします。

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