『わが青春のマリアンヌ』と『カリオストロの城』

『わが青春のマリアンヌ』という白黒映画はドイツ語版とフランス語版とあって、私はフランス語版の方を観ました。ドイツ語版とフランス語版はそれぞれ別に撮りなおして作ったとのことで、なぜそんな手間なことをするのか若干の疑問は残りますが、内容的には浪漫主義を突き詰めた感じの情熱的な愛をテーマにしたもので、同時に見果てぬ夢を追う悲しき男の物語にもなっています。

物語の舞台はドイツの山の中、バイエルン地方とかそんな感じのところです。時代は多分、19世紀の終わりか20世紀の初めかあたり。ボートがエンジンで動く場面がありますし、鉄道も通ってますから産業革命よりは後ですが、戦争の影とか感じないので、ワイマール時代まではとても行ってないないかなあと飛行機もまだ飛んでない時代かなあといったところです。

寄宿制の学校があって、夏休みになっても行く場所のない少年たちがそこで生活して、退屈な日々を過ごしています。『1999年の夏休み』みたいな感じです。アルゼンチン帰りの男の子が転校してきます。楽器ができて、運動神経がよくて、顔がよくて心が優しいリア充一直線な感じの少し年長の少年です。動物に愛されて、動物の方から寄ってきますのでお釈迦さまみたいです。また、教授の親戚の娘さんも身を寄せます。娘さんはアルゼンチンから来た転校生のビンセントに夢中になります。しかし、ビンセントは娘さんの誘惑にちっとも心が動きません。何故なら、湖の対岸の館に住むマリアンヌという女性にすっかり心を奪われてしまっているからです。

対岸の湖は幽霊屋敷と呼ばれていましたが、少年たちが恐いもの見たさで対岸へ渡ります。番犬に追われてびっくりして逃げ帰りますが、ビンセントは館の中に入り、マリアンヌという女性と出会います。マリアンヌは女性の造形美の極致とはこれであると言わんばかりの彫刻のように美しい女性です。二人は互いに一目で相思相愛になりますが、館には男爵がいて、マリアンヌはその男爵に幽閉されているので、ばれるとヤバいということで、ビンセントは一旦学校に帰ります。

再開する日を心待ちにするビンセントに「助けて」と書かれた一通の手紙が届きます。ビンセントが急いで駆けつけるとマリアンヌ曰く、怖くて年老いた男爵に無理やり結婚させられる。助け出してほしいとのことなのです。

貴族のおじさんの城に幽閉されて無理やり結婚させられるというのは『カリオストロの城』と同じです。館を警備しているこわいおじさんが、カリオストロのグスタフとだぶります。「おー、ここにオリジンがあったのか」と思わずうなってしまいます。『カリオストロの城』ではルパンがクラリスを助け出しますが、わが青春のマリアンヌでは、ビンセントは男爵から、マリアンヌが精神に問題を抱えるようになった事情を聴かされます。しかし、マリアンヌはそうではないと主張します。どっちが本当のことを言っているのか分かりません。羅生門みたいになってきます。

一旦帰ったビンセントは、翌日、親友と再びマリアンヌの館を訪れますが、誰もいません。もぬけの殻です。『雨月物語』みたいです。マリアンヌはやはり幽霊だったのか?との疑問が湧く中、ビンセントは母親の新しい家に呼ばれますが、彼はそれを無視してマリアンヌを探す旅に出ます。無理ゲーをやりたくなるのが男なのかも知れません。しょせん叶わぬと知りながら、見果てぬ夢を追う姿はなんだか『パイナップルパン王子』の父親みたいで、いろんな意味で残酷です。マリアンヌを探すのをやめた時、彼は大人になるのかも知れません。犬が泳いだり、鹿が走ったりする場面がなかなかいいです。



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