映画『必死剣 鳥刺し』の階級闘争と慈愛

海坂藩という藤沢周平さんの小説に出てくる架空の藩の物語。多分、設定的にはかなり大きい藩です。10万石は確実で、20万石あってもいいくらいです。海があって山があり、お城も大きいですし藩士の数も多いです。庄内藩がモデルらしいのです。海坂藩が舞台の隠し剣シリーズでは下級武士がずるくて貪欲な家老級のおじさん武士に利用されて騙されて虐げられて、最後に一撃で復讐するという一定のパターンがあります。この作品もそのパターンの一つです。

殿さまの側室が殿さまを骨抜きにしてしまい、藩政をわたくししています。諫言する家臣あれば切腹させられ、身内の出世のために年貢が上がり、民が苦しみます。主人公のトヨエツが義憤にかられて側室を場内で刺殺します。通常だったらぎりぎり切腹。打ち首でも妥当な処分なはずですが、石高の削減と一年の閉門で許されます。なんかおかしいなあという空気がありますが、なにがどうおかしいのかは、なかなかはっきりしてきません。

家老の岸部一徳が一計を案じ、トヨエツを殿さまのボディガードに据えます。お気に入りの側室を殺された殿さまからすると不愉快なことこの上ありません。それでも我慢してトヨエツに仕事をさせます。殿さまは分家の吉川晃司のことが嫌いです。他の家臣は殿さまに意見することもできませんが、吉川晃司は分家なので立場が違い、言いたいことをはっきり言うことができます。なので、殿さまが間違っていると思ったときは直言します。殿さまにはそれが気に入りません。殿さまの心境を忖度した岸部一徳が吉川晃司を激怒させる方向に話を持っていき、刃傷沙汰にならざるを得ない状況を作り上げ、トヨエツと勝負させます。双方剣の名人ですが、トヨエツ勝利。岸部一徳はトヨエツに全ての罪を着せて城内の武士に殺させようとします。トヨエツは剣術の達人ですので、簡単にはやられませんが半死半生、半殺しの状態で岸部一徳の前でうつ伏せに倒れます。死んだと見せかけて、岸部一徳が油断したところで一撃で刺し殺します。トヨエツもこと切れます。

壮絶な内容ですが、悪い上役に手下が反撃するという構図は階級闘争で最後の最後で非搾取階層が命がけで勝利するという構図を当てはめているのではないかなあと思います。このシリーズは全部そういうパターンなので、原作者は意識的にそういう構図を作っていたのだろうなあと思えるのです。真実の非搾取階級は農民の人々で、下級武士は搾取階級の最下層にいて、もし革命が起きればどちらかと言えば早い段階で始末される対象になるのですが、そういうのでは日本人の好む絵にならないので、偉い家老クラスの武士vs下級武士になっていると言えそうな気がします。

トヨエツと吉川晃司の殺陣が絵になります。かっこいいです。子どものころ観た時代劇チャンバラものは主人公が踊るようにひらひらと舞いながらぱっぱっ敵をきりたおしますが、人を殺すのに軽薄すぎはしまいかと疑問を感じました。一対一で鬼気迫るものの方が見応えがあるんじゃないかなあと個人的には思います。城中で斬り合いになっている時、外で雨が降っているのもドラマチックでいいと思います。

藤沢周平さんの作品は優しい視線に溢れているというか、情愛と慈悲に満ちていて、描いているストーリーは残酷なのですが、あの枯れた味わいの文章はとても好きです。凄いと思います。

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