原田眞人監督の『日本のいちばん長い日』よりも何十年か先に作られたのが、岡本喜八監督の『日本のいちばん長い日』です。二つの作品を見比べてみると、大きな違いが3つほどあるように思います。
一つは昭和天皇の登場の仕方です。原田眞人さんの作品では、昭和天皇は本木さんがやっています。上品で物静かで難しかったと思いますが、いい感じに見えます。一方、岡本喜八さんの作品では八代目松本幸四郎さんがしています。しかし、ほとんど顔が出てきません。昭和天皇の役は誰がどんな風にも物言いがつきそうな気がして、けっこう、用心しないといけなさそうな気がしますから、もう顔は出さないことで通したのではないかと思います。
それから、登場する軍の人たちの様子も随分と違います。岡本喜八さんの作品では、軍人はやたらうるさいです。大声を張り上げる場面が多くはっきり言うと何を言っているのかよくわかりません。岡本喜八さんの『日本の一番長い日』は1967年ですから、当時のことを覚えている人もたくさんいたと思いますので、本当にこういう感じの方が実際に近かったのかも知れません。とにかくうるさくて押しつけがましくて、うっとうしいおっさんに見えます。静かにしろっと言いたくなります。悲壮感が顔に出過ぎで、かえって心理的な幼稚さが目につきます。岡本喜八さんの作品の方が「軍人とはいやなものだ。軍人のことは悪く描きたい」、という要素が強いかも知れません。原田眞人さんの作品では畑中少佐がちょっとかっこよかったりするので、多少の美化(いいすぎ?)がなくもないような気がします。
それはそうとして、もう一つ、原田眞人さんの作品と岡本喜八さんの作品の違いで気づくのは、原田眞人さんの作品では女性が登場して、きちんと台詞もあって、映画を構成する重要な要素になっていることではないかと思います。その結果、原田眞人さんの映画らしい雰囲気になっているように思います。
岡本喜八さんの作品の場合、仲代達也さんのナレーションが入っていますが、原田眞人さんの作品では全部台詞で説明しているので、観客にとって理解しやすいかどうかはちょっと違いがあるかも知れません。事前に半藤一利さんの本とか事前に読んでいつ、どこで、何が起きて、それがどうなったのかみたいな予備知識を持っておかないと、何がなにやら分からないかも知れません。でも、そういうことを言っているとこの手の映画は作れないかも知れませんので、ここは観客の方に努力が認められるところかも知れません。
それ以外の要素、例えば閣議中、終戦の詔書の文言を巡り海軍大臣と陸軍大臣が対立しますが、途中で一旦海軍大臣が出て行って、帰ってきたら陸軍大臣の主張に同意する場面など、時系列的な事件のあたりはどちらも大体同じ感じに思います。
阿南陸軍大臣は、岡本喜八さんの作品では三船敏郎がやっていて、原田眞人さんの作品では役所広司さんがやっていて、どっちも渋くてかっこいい、見識も度胸もある感じになっています。陸軍内部をなだめつつ、ちゃんと終戦に協力して、終戦の詔勅の放送の前に、早々に自決した阿南陸軍大臣には好印象を持っている人が多いのだろうなあという気がします。三船敏郎さんがやる役は、大体全部好印象です。『羅生門』では悪党ですが、それでもか盗賊の多襄丸はわいい感じのいいやつです。『七人の侍』でもそうです。歳をとってからも『千利休 本覚坊遺文』で、かっこいい利休になっています。人徳かなあと思います。