エドワードヤン監督の『牯嶺街少年殺人事件』は、台湾映画の中でも私が特に好きな作品です。エドワードヤン監督の先にエドワードヤン監督なく、エドワードヤン監督の後にエドワードヤン監督なしと思っています。
国民党が国共内戦で大陸を追われ、台湾に本体が移動してきたばかりのころ、大人たちは落ち込み、子どもたちに対する威厳も失っています。エーリッヒフロムの『自由からの逃走』の第一世界大戦後のドイツに状況が似ているかも知れません。または文革期に北京の大人たちが追放されたりして力をなくしていた状況とも似ているようにも思います。大人の言うことをきかない少年少女たちが徒党を組み、街を跋扈するようになります。50年代で、若い人はアメリカに憧れ、エルビスプレスリーの音楽を愛します。
中学生男の子が女の子と好きになった嫌いになった、みたいな話になるのですが、一緒に街を歩いている画面を観て「リア充め」と思います。ですが、最後は男の子が女の子を殺してしまうという衝撃的な展開を迎えます。その結末に至るまでの男の子と女の子の間の会話のやりとりがジュブナイル的でキラキラしていて、実はとても疲れる思春期の機微が描かれます。台詞のやりとりが10代らしい切実さに満ちています。切ないです。女の子がかわいいのでもっと切ないです。
私は画面の質感のようなものも好きです。やたらリアルでぐっとくる画面です。うまく説明できません。専門的な人ならフィルムや撮影技術によって説明できるかも知れません。
牯嶺街は地下鉄の中正記念堂駅から近いです。古い切手のコレクションのお店が沢山集まっています。郵政の本部が近いことも関係あるかも知れません。その他、古本屋さん、古銭屋さん、小劇場、カレー屋さんがあります。ディレッタントが好きな人が集まるエリアなのかも知れないです。カレー屋さんは日本人の方が経営されていますが、台湾人の好みに合わせてだいぶ甘口です。
映画は実際に起きた事件をモチーフにしています。私はVHSで見ましたが、DVDが出ていません。アメリカではブルーレイが出ているようです。とてもいい映画ですので、映画が好きな人は手段を講じて一度は観るべきと思います。私は「べき」とか「お薦め」とかはまずこのブログで書くことはないですが、この映画は本当にお薦めで、みるべきです。そう思います。
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