中国映画『鬼が来た!』の日本兵の種類

中国映画『鬼が来た』では、日本兵が何人も登場しますが、だいたい以下の3つに分類できるように思います。

1つ目が「普通」の人です。香川照之さんがやってる役は、本当に普通の人です。情にもろく、流されやすい。中国人ゲリラにつかまり、中国の村で監禁されますが、じょじょに互いの感情が通じ合うようになり、友情が生まれます。

2つ目は弱いものに対して威張りまくる嫌なやつらです。武器をかざして中国人の村に現れ、食料を要求します。武器を持って脅しているだけなのに自分がえらくなったよう錯覚するタイプ。こんなタイプは当然のことながら、世界中どこでも嫌がられます。

3つ目は強くて思慮深く、残酷なタイプです。香川照之の原隊の隊長がこのタイプです。中国人との約束を表面的には守りますが、最後には香川照之を監禁していた村の焼き討ちを命じます。女性も子どもも老人も容赦なく殺されます。もしこれが史実だったとすれば明白な戦争犯罪と言っていいと思います。この映画に出てくる人みたいにやたらマッチョで眼光が鋭くて理屈ぽくて声どすの効いた上司がいたら、うっとうしいことこの上ないと思います。

映画では最初に香川照之が出てきて日本人に感情移入しそうに観客を誘導した後で、嫌な日本兵と残酷な隊長を登場させます。村を焼き討ちするシーンは『シンドラーのリスト』から想を得たのではないかとごく個人的には感じます。

しかしながら、この映画の核心的な部分は、おそらくは最後の方に出てくる国民党の将校に集約されます。日本軍が降伏した後、アメリカと手を結び、日本兵捕虜の権利は守るのに、対日協力者は死刑にします。焼かれた村で き残った男が捕虜収容所に入り込み、日本兵を殺しまくります。結果、国民党の将校によって死刑を宣告され、日本人捕虜が国民党将校の命令に従って男の首を斬ります。

言い方はよくないですが、同じ中国人なのに国民党はアメリカと日本に妥協する売国奴だというメッセージが込められていると感じます。国民党の将校はぱりっとしたきれいないい軍服を着ていて、顔が良くて、北京語がきれいです。いわゆる資産階級で、労働者階級の敵という言葉が当てはまりそうな感じの人です。足をけがしていて松葉づえをついているのは、滑稽に見せるための演出なのだろうと思います。

このあたりのことはとても難しい問題なので、なまなかに論じることはできません。また、映画が作られた時代背景もあるかも知れません。『鬼が来た』は2000年の映画です。馬英九政権ができる前で、おそらく一般的には、まだ、中国では国民党は敵だと教えられていたのかも知れません。また『陽光燦爛的日子』では主人公が「アメリカ帝国主義は敵だと教えられていた」という主旨のことを独白していますので、それも、国民党の将校がアメリカ軍の兵士と並んで立つ場面、中国の片田舎にアメリカやイギリスの旗が掲げられる場面と関連して考えることができるように思います。

繰り返しになりますが、難しい問題をはらんでいますので、シノロジーを多少はかじった身としても簡単なことは言えません。それぞれに観て判断するしかありません。映画の前半は笑えるシーンも結構入っていて、作った人のユーモアのセンスを感じることもできます。三回くらい観ましたが、繰り返しの鑑賞に耐える映画だということは言えると思います。

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