中国映画『立春』の夢と現実の独身生活

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顧長衛監督の2007年の作品です。王彩玲という女性が地方で音楽の先生をしています。歌がとてつもなくうまいです。ただ、私は歌曲の素人なのでそれがどこまで本当に凄いのかはよくは分かりません。ただ、映画の中の歌声を聴く限りめっちゃうまいです。30代後半か40歳近い感じの中年になりかけの女性なのですが、恋人がいません。また、過去にいたこともありません。孤独の独身を突き進む現代的な働く女性です。

北京で歌劇団の仕事がしたいです。ですが、高過ぎる競争率に阻まれてなかなか採用はされません。しかも、中国独特の都市戸籍がなくては北京に住むことができないという壁があり、北京進出すら夢のまた夢です。誰もが「北京」という言葉をきくとさっと目を輝かせます。『砂の女』で岸田今日子が「東京」という言葉に反応するのと同じです。しかし、北京は以上のような理由でその高く厚い壁は越えがたいです。

色々な男性が彼女の前に現れては消えていきます。彼女に惚れてしまって歌を学びに来る男、彼女が惚れてしまった画家志望の男、バレエを教えているLGBT風な男性などなど。王彩玲に妥協はありません。気に入らないことに対しては気に入らないといいます。好きなものに対しては真っすぐです。自分の気持ちに正直に生きるという意味ではとても現代的な女性です。『自由恋愛』の長谷川京子は自由にはばたきますが、王彩玲の場合はそうはいきません。夢を追いつつ、現実に打ちのめされます。次々と不可解な人物が現れ出てくるのは、いわば映画的というか、そういうのが映画のおもしろさと言ってもいいものかも知れません。

日本では経済の低成長時代に入り、いろいろな意味で「立身出世」的近代は終焉し、現実的に手の届く幸せを重視する人が増えてきたように私は思いますが、少し前まではビッグドリームを掴みたいという思いを持つ人は大勢いたように思います。私も過去には大きな夢を抱いたこともありましたが、やがて少しずつ「現実…」的に生きるようになりました。良くも悪くもビッグドリームを追う疲れる無理ゲーからは距離を置くのが現代日本人かなあという感じがします。

一方、中国の場合、最近は陰りも見えてきましたが、過去20年、経済が成長に継ぐ成長を重ねたことで、「ビッグドリームは叶う!」という発想で生きている人が多いように思います。個人的に中華圏の人と話してもそう感じます。夢があるのはいいことだとも思いますが、しんどい人生だなあとも思います。

王彩玲はありあまる才能を手にしながらも現実に埋没してしまう、要するによくいる人物で、観客は自分のなにがしかを王彩玲に投影できるように作られています。王彩玲は美人というわけではなくて、クラスに一人はいた地味な感じの、時々かわいげのある感じの普通の人です。その普通な感じが、更に投影しやすくなるのかも知れないです。

映像がきれいです。くやしいくらいに映像がきれいなので、そこはもう、中国映画が高く評価されるのも頷けます。

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