【漢文】易経とは何か

私は現代中国語ならかなりのレベルで使いこなす自信はあるのだが、漢文が読めない。詳しい人に相談したところ、現代中国語と漢文は全く違うものなので、別途勉強しなければ永遠に身につかないという厳しい現実を教えてもらい、夏休みを利用して漢文の肝になるところだけでも教えてもらうことにした。

で、一発目に教えてもらったのが易経についてである。いわゆる四書五経の一つに入る。で、この易経というのがなかなか奥が深いのだが、漢の武帝の時代までは六経で、武帝の時にされて五経になったらしい。隷書で書かれているそうだ。で、五経博士という特権的専門家が五経研究というのをしたわけだが、鄭玄という人物がこの五経に注釈をつけている。あまりに見事な注釈であったため、経神と呼ばれるそうだ。

で、易経なのだが、明朝以前は周易と呼ばれていたという。周の時代から存在したからだ。伏義という伝説の男(三皇五帝の三皇の一人で、厳密には三皇は「神」の部類に入るそうな)が八卦という占いを編み出したのだが、八卦は方位天地、神羅万象を表すもので、陰陽五行道の原点でもあり、今の韓国の太極旗のマークと同じものを使って方角を見て吉凶を占うというのをやっていた。で、周の時代に文王が64卦に増やしている。八×八で64だから、それだけ細分化して占いの精度を上げることになったということらしい。更にこれを孔子が究めたのが『十翼』と呼ぶのだが、このように時間をかけて洗練されて作られたのが「易経」なのだそうだ。

従って、極めて制度の高い占いの手引書として今に至るまで信用が高く、日本では当たるも八卦当たらぬも八卦と言われるが、中華圏ではもっと精密なものとして扱われている。また、よほど訓練を積んだものでなければ易経を体系的に使用できないので外すのであり、充分に訓練を積めば、かなりの確率で当たるのだという。易占いは確率論であり、たとえば明日告白してオーケーをもらえる確率は〇〇%みたいな感じで出てくるので、イエスかノーかの結果が出るものではない。しかし、それだけにかえって信憑性が高いのだと言えるかも知れない。今でもスポーツの試合でどちらか勝つかに八卦を用いるという人がいて、とある人がやってみたところ「分からない」という結果になり、その試合は逆転に次ぐ逆転の接戦を繰り返し、占いの結果が「分からない」というのも納得であるとの説明をされた。

私は四書五経は知っていたが、そのうちの一つが易だということを知らなかった。いや、ぼんやりとは知っていたが、それが占いだということに気づいていなかった。漢文の易経の存在は知っていたが、中身については何も知らず、言われてみれば易と言えば占いではないかと、説明されて気づいたのである。それだけでも大発見というか奥深き中国古典の入り口に私はようやく立てたわけだが、果たしてそんなに奥深いものをどこまで追求できるのか…自信はない。よく中国の世界観は孔子の時に完成してしまい、以後、変動しないというような言い方をする人がいるが、納得できる。

トランプ大統領の交渉手法はこれだ

ドナルドトランプが大統領に選ばれて一年半、一方で「何をするかわからない」と不気味がられる反面、「めちゃくちゃな公約を公約通りに進めている」とやはり不気味がられている。要するに不気味がられているのだが、彼の全てを知ることはできないものの、彼のアジア関連の外交を見る限り、一定の手法があることが分かる。

中国の習近平国家主席が訪米した際、チョコレートケーキかなんかを食べている時にシリアにトマホークを撃ち込んだという知らせが入ると言う、人の食欲を敢えて萎えさせるような手法で脅しをかけたが、この時の米中間で話し合われた主たる話題は貿易と北朝鮮の核問題だった。トランプは貿易不均衡の是正を要求したわけだが北朝鮮が交渉材料になり、北朝鮮の核放棄を中国主導でできるなら貿易不均衡については目をつぶるというわりと分かりやすい取引が行われた。

で、しばらくそれで様子見に入ったわけで、その間に北朝鮮の金正恩委員長が訪中し、或いは中国主導で北朝鮮の核廃棄もあり得るかという観測も生まれたが、結局のところ北朝鮮サイドが自分たちのバックには中国様がいるということを世界に知らしめるだけの効果があっただけで、中国主導による北朝鮮の核放棄は実現されなかった。その結果を受けてトランプは北朝鮮と直接協議することにしたし、躊躇なく中国製品に大規模な関税をかけることを決心したのである。要するに一旦、チャンスを与えて相手のお手並みを拝見し、話しが違うということになればアメリカファーストの原則で押していくのだ。

この手法は北朝鮮に対しても行われていると私には思える。シンガポールで史上初の米朝首脳会談が行われたが、一方で具体的な中身が何もないという批判があった反面、事実上アメリカの勝利、または事実上北朝鮮の勝利など様々な評価があちこちで行われた。だが、上に述べたようにトランプは一旦相手にチャンスを与えて約束が実行されるかどうかをお手並みを拝見するという手法になるので、現状は北朝鮮が約束を守るかどうかの見極め期間と言うことができる(2018年7月12日)。見極め期間が終わりトランプが相手が約束を守らないと判断した場合、これまでに公言した通りの強硬な手段がとられる可能性は充分にあるわけだが、北朝鮮が核を放棄することは私はあり得ないと思っているので、一切は私の想像だが北朝鮮サイドは如何にしてあたかも約束を守ろうとしているかと信じさせる期間を引き延ばそうと努力するだろう。従っていつまで見極めるかのせめぎ合いということになる。

とはいえ、仮に強硬手段を選ぶ場合、周辺関係諸国との合意や協力は必要になる。日本は敗戦国でアメリカ様の言いなりになるのが宿命ではあるが、安倍晋三首相は押せ押せでトランプ大統領に迫っているはずだが、もう一つの主要なアクターである韓国の文在寅大統領は下げ下げで行くはずである。韓国から在韓米軍を撤退させて台湾にある程度の規模の海兵隊を置くというプランがあるとまことしやかに語られることもあり、にわかに信じることはできないが、絵空事とも思えない。韓国、台湾に関することもトランプ大統領は取引条件を示し、取引が成立するかどうかを見極め、決断するというやり方を繰り返すだろう。ヨーロッパは完全にトランプのアメリカに愛想をつかしているので、欧米連合で国際社会が動くということは当面は考えにくい。日米同盟が世界の一方の軸になり、巨大な中国が一帯一路で場合によってはヨーロッパで仲良くするというカウンターパートという新しい世界の構図が見えてこなくもない。しばらくすればインドも主要なアクターとして浮上してくる。

要するにはっきりしていることは日本がアメリカ様とどこまでも行く以外の選択肢を持っていないということだけで、あとはそれ以外がアメリカにつくか中国につくか現状では何とも言えない。ヨーロッパ、韓国、インド、台湾が果たしてどっちにつくかを見守りたいところではある。繰り返しになるがヨーロッパはトランプを見放しているので中国よりに傾く可能性はある程度あると言える。台湾は政権交代が起きれば大きく政策が変わるので、時期総統選挙の結果を見ないことには何とも言えない。韓国はなんとなく中国につきそうな気がするが、意外と親米勢力も健在なので見通せない。インドは日米同盟につくのではないだろうか。

全て私の想像です。いいですか。私の想像ですからね。念押ししますが、想像ですよ。

2020年中国が台湾に侵攻する説を考える

インターネットで中国、台湾、2020と検索すれば、中国がその年に台湾を侵攻するとする説でもちきりなのが分かる。中国語のブログなども参考にしてざっくりとしたことを述べると、軍拡に熱心な中国は2020年には台湾に侵攻しても他国の干渉を排除できるだけの体制を整えることができると台湾の防衛白書に書いてあるらしいのである。

仮にそのようなことが書かれてあるとしてその真実性について考えてみたい。

中国の台湾に実質的な施政権を及ぼしたいという念願は強く、最優先の国策国是になっていると言ってもいい。そのため、現在の共産党政府が存続する限り、台湾を吸収編入しようとする努力は続けられると考えていい。だとすれば問題は、①中国共産党政権が存続し続けるか ②存続し続けるとして、彼らは台湾編入をなし得るかということになる。まず①から考えたい。

中国経済の衰退の兆候は様々に見られる。しかし、現在までに破綻や衰亡のような危機的状況に至っているかといえば、そうとは言いがたい。中国経済の指標には嘘やデタラメ、インチキが多いという指摘は多いし、もしかするとそれは当たっているかも知れない。たとえばソビエト連邦が崩壊した後、彼らが相当にデタラメな数字を使って実際には火の車の経済を糊塗していたことが分かってきたため、中国共産党政府も同じ運命をたどるのではないかと言う指摘があることも確かである。しかし現状、共産党政府が崩壊する外形的な兆しはない。経済的な衰退と言っても前ほど伸びなくなったというだけであり、日本に比べれば羨ましいほどの成長力は今も備わっていると見るべきだ。あるいは帳簿が二重だったり、数字がごまかされていたり、約束の不履行が次々と明るみになるということはあり得るが、我々が生きている間に、それらの綻びが共産党政府を破綻させるに至るほどのものになるかどうかは分からないし、当面はなさそうに見える。中国共産党政府は当面存続するだろうし、台湾編入の努力は引き続き熱心に行われることだろう。

では、彼らは果たして本当にそれをなし得るかということが議論されなくてはならない。台湾が中国に吸収される日は本当に来るのだろうか?2020年に外国の干渉をゆるさないほどに強力な軍事力を整えるということは、一言で言えばアメリカよりも強くなるということだ。アメリカは今も世界の覇権国だが、近い将来中国がアメリカに取って代わるかどうかは今のところは何とも言えない。取って代わるかも知れないと思えるほどに中国は巨大である。ただ、アメリカが衰退しているわけでもない。アメリカの世界経済に対するプレゼンスが下がっているのは確かだが、アメリカ経済そのものは堅調であり、他の地域、特に中国が急速に発展したためにアメリカのプレゼンスが相対的に下がったということでしかない。そのため、アメリカが中国よりも更に強い軍事的なパワーを維持したいと考えているとすれば当面の間、それは可能だし、台湾を西側の砦として守り抜くというアメリカの姿勢が崩されることは、これも当面の間はなさそうである。

とすれば、将来的に中国かアメリカのどちらかが台湾を諦めるまでこの紛糾は続くということになり、また、どちらが諦めるかを見届けることは最終的にどちらかが勝ったかを見届けることにもなると言えそうだ。

それはある程度遠い将来のことかも知れないが、意外と近い将来にそれを占うことができそうな外交日程がある。米朝首脳会談は実現の可能性が相当に高まってきているし、本当に実現すれば米朝平和条約も雲をつかむような話ではなくなってくる。その場合は中身が問題になってくるわけだが、先日行われた南北首脳会談では朝鮮半島の非核化を目指すことが声明されており、北朝鮮が核放棄をする見返りに在韓米軍は撤退することを目指したものだと言って良い。北朝鮮のリーダーは必ずしも世間で言われているほど愚かな人間ではないことは最近になってはっきりしてきた。中国にも二度に渡って訪問しており、背後には強力な味方がついていることをアピールしたからだ。アメリカに対しては北朝鮮は甘くないというメッセージになっただろうし、中国に対しては北朝鮮は従順であるというメッセージになった。

即ち、米朝首脳会談は実際には米中の駆け引きとせめぎ合いであり、どちらが外交達者かを見極められる舞台になるはずだ。トランプ大統領が適当に折り合いをつけ、例えば限定的な核査察しか行われないのにそれを認めたり、在韓米軍も撤退とまではいかなくとも縮小することに同意したりすれば、中国は台湾に関しても同じように駆け引きができると考えるだろう。そうなれば俄然、台湾の中国への編入は現実味を帯びてくることになる。反対にトランプ大統領がかなりの強硬姿勢で完全な核査察の実現にこだわり、在韓米軍も撤退しないということで話がつくのであれば、中国は台湾に関することでもアメリカがどういう態度で臨んでくるかを予想することができるため、台湾を強引に編入することには躊躇することになるはずだ。

尤も、中国が台湾を武力的に襲撃して占領するということは考えにくい。そのような目立つやり方をすれば世界から警戒され非難されるということは議論するまでもないことだ。そのため、台湾人の自発的な統一への意思に沿うという体裁で統一を進めて行くはずである。私が当局者であれば、台湾で国民党政権が返り咲くのを待つし、国民党政権復活のために協力できることをやろうとするだろう。そして国民党政権下で躊躇なく統一の手続きを進めようと考えるはずだ。国民党の中にも統一を良しとしないグループは存在するため、そのことにも手を打たなくてはならないが、説得するか粛清するか利益誘導するかして何とかするということになるはずだ。

昨今の2020年に中国が台湾に侵攻する説は、台湾の独立を志向するグループから広められたのではないかと私には思える。蔡英文総統の二期目があるかどうかは意外と不透明で、独立派はまずは蔡英文氏の二期目の当選を確かなものにしたいからだ。2020年というリアルな時間軸は、危機感を煽ることで蔡英文氏が選挙戦で有利になることを狙っているのではないかと考えることができる。私の想像、推測、憶測である。

しばらくは米朝首脳会談の結果を待つしかなさそうだ。会談が実現するかどうかもまだ分からないのだ。直前のキャンセルもあり得るのだから。

昭和史56‐ドイツ必敗予言‐次期大戦の経済的研究

とある情報機関の機関紙の昭和14年12月11日付の号で、ポール・アインチヒという人物の『次期対戦の経済学的研究』について言及されている記事がありましたので、ちょっと紹介してみたいと思います。ポール・アインチヒという人物について検索してみたところ、彼はルーマニア出身で後にフィナンシャルタイムスの記者になり、英国に帰化した人物のようです。で、当該の記事に曰く

先づ「英国は戦闘には敗けるかも知れないが、戦争にはきっと勝つであらう」と云ひ又、「ナチス・ドイツの恐るべき戦闘力に、たとひファシスト・イタリーの援助があったにしても、民主主義国が必ず勝つといふことは、戦争の結果が大いに経済的理由によって左右されるものである限り、疑ひに一点の余地もない」と断じまして最後に左の如く結んでおります。
「若しも第二次世界大戦が始まるならば、それは必ずや長期戦になるであらうが、長期戦に於ては経済的理由が勝ち負けを決する極めて重要な要素であるから、英吉利のやうな金準備が豊かであり、之によって豊富な食料品や原料品を得られる国は、独逸のやうな金が少く又、食料品や原料品の乏しい国に対し、必ず最後の勝利を得る事が出来る事は、前大戦の時と同じである」と言うて居るのであります。

と紹介しています。後の歴史の展開を知っている我々から見れば、ポール・アインチヒのドイツ必敗の予言はその理由も含めて完璧に的中したということが分かりますが、当該記事の筆者は、「必ずしもそうとは思はない」としながらも、「近代戦」が経済戦であることは認めています。次いでアドルフ・ヒトラーの著作である『我が闘争』の内容を紹介し、ヒトラーがドイツが第一次世界大戦で敗けたのは、銃後の国民が節約に徹しなかったからだと述べているとして、日本も蒋介石との長期戦に勝つためには、国民が隠忍自重し、我慢を重ねて贅沢をせず、節約して経済戦に勝たなくてはならないとしています。当時の段階は、英米の蒋介石政権への肩入れは明らかで、何せ世界の大国であるアメリカとイギリスが蒋介石に存分に援助を与えているわけですから、経済戦の面でも昭和14年の段階で、緒戦で連勝しながらも実は日本の側が窮していたわけで、当該記事の著者もその事情ははっきりしすぎるくらいによく分かっていたようで、筆致からは焦燥感のようなものを感じ取ることができます。当時の日本はすでに経済戦でも敗けていて、国際世論は日本に味方せず、東南アジア華僑も蒋介石支持でしたから情報戦でも敗けていたと言わざるを得ないように思えます。また「大東亜共栄圏」という理念も、要するに植民地をたくさん持っているイギリスは何かと有利なので、日本もそうしたい、或いはそうしないと世界に追いついていけないという焦燥感と表裏一体、不離不足だったということ、イギリスみたいになるためには、遅れてきた日本のような帝国も経済ブロックを持たなくてはいけないという、切実さのようなものも感じ取れます。

結果としては日本帝国は植民地の維持だけでも大変で、更に満州国や汪兆銘政権への援助で手いっぱいになり、太平洋戦争が始まると占領地が広すぎてどうしていいか分からないというところまで追い込まれていきますから、石橋湛山の言うところの「小日本主義」が正しかったと言えますし、戦後の日本が繁栄したのも、小日本主義に徹したからと言えるようにも思います。いよいよ昭和15年、アメリカとの開戦前夜の息詰まる危機感と焦燥感のある記事がどんどん出てくるはずですから、日本人の私としては歴史に関心があるという意味では、多少わくわくもしますが、同時に日本帝国の滅亡へのまっしぐらを辿るわけですので、何ともやりきれない心境にもなってしまいます。


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昭和史45‐太平洋戦争の前哨戦-コロンス島事件

日中戦争で日本軍は厦門の占領を果たしますが、厦門沖の小さな島であるコロンス島(中国語では鼓浪嶼と言うらしいです)は、列強の租界になっており、日本軍も手を出さずにいました。対日協力者の洪立動という人物が暗殺されたことがきっかけで日本軍が揚陸艇を出して上陸し、英米仏連合軍も上陸を辞さずとする事件が起きます。この事件について多少資料を探したり、検索もしたのですが、ほとんど情報がないので、詳しいことは分かりません。ただ私が追いかけている情報機関の機関紙の昭和14年6月21日付の号では多少のことは書かれているのですが、当該機関紙は日本軍にとって都合の悪いことは書かないので、果たして戦闘があったかどうかも定かではないですが、どうも本格的な衝突になることを回避するために日本軍が撤退するという顛末だったようです。一歩間違えば戦争になっていたわけですから、太平洋戦争の前哨戦だったと位置づけることも可能と思えます。

当該機関紙では、日本軍は租界に手を出すつもりはなく、真犯人とその背後の組織を摘発することが目的だと説明したのに、英米仏が軍を出動させるとはなにごとか、そもそも工部局(コロンス島の行政・治安を担当していた部署)が仕事をしないからこういうことになるのだと怒りを爆発させています。当該の記事では各国でどのような報道があったかも紹介しており、中国の新聞は「日本軍が英米仏に屈した」と大見出しで盛り上がり、オランダ領インドネシアの新聞では「英米が連合し、アメリカの太平洋艦隊が展開するようになった場合、まさかドイツ・イタリアと同盟して対抗する」などのような愚かなことはしないだろうと論じており(実際には、その後、当該記事の通りになったわけですが)、イギリスではモンロー主義のアメリカも、日本に対抗することについては手を引かないことを示したとの評価をし、英蘇連携も進むだろうとの見方も出しています。アメリカの新聞では「日本が租界を奪取するという前例を作らせなかった」この意義を強調しており、まあ、はっきり言えば、日本は英米仏中と戦争する寸前まで行っていたわけで、世界的に完全に孤立していたことが浮き彫りにならざるを得ません。ドイツとイタリアがいたではないかとの指摘もあるかも知れませんが、ドイツ、イタリアは太平洋、東南アジアにはほとんど影響力がありませんから、事実上の意味は全くないと言っていいとも思えます。

それらの報道について当該記事では「日本側に云はせれば却って極東に於ける日本の勢力を日々不安焦燥の目で眺めていた諸外国が(略)日本をおどさうとしているのではないか、(略)強硬である日本の態度に驚きあわてふためゐてゐる英米仏の強がりも面白いではないか」と結んでいます。日本がどれだけ危ない橋を渡っているのかについての自覚が全くないことに愕然としてます。情報部を収集したり、プロパガンダをすることはできてもインテリジェンスができない、諜報ができない日本帝国の脆弱さを見せつけられてしまった思いで、orzとしか言えません。

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昭和史41‐英米の蒋介石援助

とある情報機関が発行していた機関紙の昭和14年4月21日付の号では、イギリス、アメリカによる蒋介石の援助について解説していますので、紹介してみたいと思います。当該の記事では、蒋介石政権が中国大陸のかなり奥の方まで追い詰められているにもかかわらず、粘り強く抵抗を続けている理由として、蒋介石政権が外貨を大量に持っていることを指摘しており、なぜそんなにお金があるのかと言えば、世界中の華僑資本家の支持があることと、イギリス、アメリカの援助があることを理由として挙げています。日本は緒戦では買ってはいますが、世界的規模で敗けていたと何度もこのブログで書いていますが、やはり、この記事も日本が世界的な視野から見れば孤立していたことを裏書きするようなものだと言っていいのではないかと思います。

当該記事では、フランスの経済新聞が、イギリスの蒋介石への援助は東アジアの権益を守るために援助しているのであって、蒋介石そのものへのシンパシーに基づくものではないという趣旨のことを書いていると紹介していますが、まさしく、英米の権益を日本が脅かすからこそ、やがては日本帝国の滅亡を迎えることになってしまったわけですから、この記事を紹介することで、蒋介石はそんなに英米に愛されているわけではないという解釈を与えるのは大局を見失っていると判断せざるを得ないと思えます。

当該の記事は、いずれ蒋介石は大金だけを持って中国大陸から脱出しなければならないことになるだろうけれど、その場合、それまで蒋介石のために戦ってきた中国人民見捨てられるのだという主旨のことで結ばれていますが、事態は後にこの予言の通りになったとも言え、そういう意味ではここは見抜いていたと言ってもいいですが、それは日本帝国が滅亡した後に起きたわけで、当該情報部は英米が日本帝国をつぶすことをとにかく優先していたという結果的事実を見抜くことができていません。

「情報部」を名乗るくらいですから、情報収集のプロ、情報分析のプロの集団であったはずですけれど、全く分析できていなかった、日本有利と宣伝するだけのプロパガンダ機関にすぎなかったと思うと、頭脳なき戦争を日本は進めていたのだも思われて、やっぱりがっくし…。ですねえ。


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昭和史20‐中国共産党とソビエト連邦と排日運動

昭和13年3月21日付の某情報部発行の機関紙では、国民党軍の台湾に対する空襲があったことを受けて、防空に対する心構えや準備、今後は航空母艦による襲来も想定しなければならないという不気味に的中している予想などが書かれていますが、興味深いのは当該情報部が海外の排日運動に対して大変敏感になっていることです。香港では排日運動をしていた人物が逮捕されて国外退去になるという有様で、マニラでは華僑による排日運動は沈静化に向かっている一方、シンガポールでは排日運動が威力妨害の域に達しているなどと記述しています。台湾に巨大なラジオ施設を作り、南方方面に宣伝戦をしかけようという構想が書かれていたことは前にも述べましたが、情報当局が宣伝戦についてかなり神経をすり減らしていることが手に取るようにわかります。非常に不安だったのではないか、だからこそ機関紙で繰り返し、東南アジアでの排日運動に対して敏感になっていたのではないか、それだからこそ宣伝戦にも力を入れようとしていたのではないかという気がします。

もう一つ興味深かったのは、中国共産党と国民党が手を握ったものの、その後は必ずしも両者の関係は緊密なものにはなっていないという情勢分析があったことです。その理由としては、中国共産党と手を結べばソビエト連邦から多量の援助が得られると期待していたのがそれほどでもなく、中国共産党としてはもらいが少ないのに口は出してくるという不満が溜まっているという話になっています。しかもソビエト連邦と手を結べばドイツ・イタリアを敵に回す上に英米の信頼も失うのでかえって藪蛇になっていると結論づけています。

これは半分は正しいが半分は間違った情報分析と言えます。英米がもっとも警戒していたのがアドルフヒトラーであることは間違いありません。英米とソビエト連邦はアドルフヒトラーを倒すということで利害が共通していたわけで、日本がアドルフヒトラーやムッソリーニに近づくことによって、日本の方こそ英米の信頼を失っていくことになるという最も重要な点にこの分析者は気づいていません。しかしながら、ソビエト連邦を手を結んでも介入してくるわりにもらいが援助が少ないのは多分、事実だったでしょうから、そこは合っているのではないかとも思えます。

いずれにせよ、情報分析担当者のインテリジェンスがこの程度であったこと、アドルフヒトラーが世界で最も警戒されている人物だということを見抜けなかったということは、残念ながら戦争に敗けるのも致し方のないことかも知れません。あるいは情報分析者が中央の動向を「忖度」して中央にも受け入れてもらえるような内容の分析結果を出していたという可能性も否定できませんが、そのような忖度ありきのインテリジェンスは値打ちがありません。やはり、敗けるべくして敗けた…と思わざるを得ませんねえ…。

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昭和史7‐国民精神作興週間

昭和12年の末頃、国民精神作興週間なるある種のイベントが行われました。みんなで家の外に出て日の丸を振ったり、ラジオ体操をやったり、献金を呼び掛けたりしたらしいのですが、そこまですることには鬼気迫るものを感じざるを得ませんし、現代人の目から見てどうしてそこまで蒋介石と戦争を続けたいのか謎にすら思えてきます。もっとも、国際連盟脱退後のことですから、世界の中で孤立してしまったという現実がより一層、日本人に危機感を持たせてしまったのかも知れません。

昭和12年12月11日付のとある情報機関の資料では、日本の財政が金銭的に厳しい状態におかれていたことを示しています。曰く国際収支での均衡を保たなくてはいけないため、「海外旅行した者は土産物を差し控えるように」とのお達しまで出ています。外国へ旅行すればそれだけ国際収支がマイナスに傾くからで、そのような点にまで目を向けなければならないということはかなり切迫した状況だったことが分かります。国債もなるべく低額で予算の少ない人でも買えるようにするべしとも書かれてあり、今でいえば消費税を上げる上げないくらいの感覚でとにかくどこからでもいいから戦費をなんとか調達しなくてはいけないという必死の様相が伺えます。

興味深いのは当時の台湾で台湾在住の中国籍の人たちからの献金があったことも報告されていることです。当該資料では「彼等の自発的で麗しい心情は国境を越えて怨念を離れて、この献金となって現れて居るのである」と述べています。個人的には中国人はやはり頭が良いとうならざるを得ません。日中戦争中、日本もしくは日本の海外領土で居住する中国人は、日本の官憲の好意的な中立を勝ち取る必要があったでしょうから、その好意的中立をお金で買ったとも言えます。身の安全のためなら安いものです。鋭敏な保身の本能はとても日本人にまねできるものではありませんから、これは中国人はさすが一枚も二枚も上手だと認めざるを得ないのではないかと思えます。

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昭和史1-排日運動の歴史

とある公的機関刊行物の昭和12年9月15日付の号では、当時の日中関係に関する当局者の見方が述べられており、当時、日本の当局者がどのように日中関係を理解していたかということを知る上で興味深いものになっています。

当該の文章では、縷々、平和と正義を重んじる日本軍に対し、中国サイドで排外主義が盛り上がり日本だけでなくフランスなど欧米諸国に対しても排外主義を発揮し、その製品を奪ったり、破壊したりしていたことを述べているとともに、日本人殺害事件が幾たびとなく頻発し、さらには日本軍に対する挑発行動も目立つため、やむを得ず関東軍が展開エリアを広げ、満州事変、熱河作戦を行ったのだ、盧溝橋事件もまたしかりである。というような趣旨のことが述べられて、そのような中国に於ける排日運動は40年もの歴史を持つのだとも述べ、はっきり言えばかなり憤っています。昭和12年9月のことですから、既に上海事変は始まっており、南京攻略戦にはまだ至っていない。そういう時期に当たります。

当該の文章では、それらの諸事件が起きた背景にはコミンテルンの動きがあると指摘しており、当該文章の結びでは

満州事変以降の数々の排日抗日事件は、総て蒋介石が自己の政権を維持し支那(ママ)の統一を促進せんが為めに支那国民に排日抗日思想を徹底せしめた結果現はれたものであって、それにロシア共産党の指令に基く支那共産党の魔の手も加はって抗日運動は益々熾烈無軌道となったのである

と述べ、問題は中国ではなく、むしろその背後にあるコミンテルンだと指摘しています。その続きではコミンテルンは一旦は蒋介石に中国支配をさせておいて、内側から赤化運動を行い、中国全体を共産主義にすることが狙いになっているので、注意せよ。というむすびになっているわけです。

この刊行物に書いてあることがどこまで信用できるのか、そもそもが書き手のバイアスがかかってはいないのか、それとも反共の著者が強引にコミンテルンを結び付けているだけなのか、私には判断のしようがありません。ただ、当局者がどういう認識を持っていたかということを知るという点で興味深いことのように思えます。



CIAは「やりたい」、トランプ氏は「やれない」、安倍氏は多分「やってほしい」だった

ただいま、2017年5月1日、午後6時です。米韓合同軍事演習はスケジュール的には終了しているはずです。軍備をどの程度解いたかなどは分かりませんが、もっとも緊張している期間は終わったと言っていいと思います。戦争にならなかったことは慶事であり、平和を愛する日本人の一人として、戦争にならなくてよかったとは思いますが、今後、いつ終わるとも知れない重圧を受けることにもなり、そのあたりは複雑な思いにならざるを得ません。

2か月にわたった今回のから騒ぎは結果としては、本当にただのから騒ぎだったと思いますが、果たして本質はどのあたりにあったのかをちょっと考えてみたいと思います。

CIAの長官が4月29日に韓国を訪問したという報道があります。ストレートニュースの類ですから、その事実に疑いを持つ必要はないと思いますが、多くの人が、CIAが本気を出しているのではないかと考えるに相違なく、私もそう思いますが、どうもCIAの方が空回りしているのではないかという気がします。まず第一に、トランプ大統領とCIAの関係は改善しておらず、両者が共同歩調をとっているように見えません。今頃になってCIAの長官が動いたということは、トランプさんがやりそうでやらない姿を見て、業を煮やしたというか、なんとか事態を「発展」させたくて後押しをしているのではないかと私には思えます。

不思議なのは、米韓合同軍事演習がいよいよ終わるというころになって、日本側が俄然、やる気になっていたというか、腹を固めた、覚悟を決めたというように見えることです。過去にミサイルの発射は何度もありましたが、直近のミサイル発射(失敗)では、Jアラートも出すし、電車も新幹線も止めるしと、臨戦態勢に入っていることを国民に告げています。安倍さんも強気の発言が目立ちます。在韓の日本人留学生には最近になって注意が呼びかけられたそうですが、明らかにタイミングを失しており、なんで今更…との感があります。

想像になりますが、当初半信半疑だった日本政府が、CIAの筋から「今回は本気だ」と告げられて、日本側も本気モードに入ったのではないかと私には思えます。即ち、CIAの長官が韓国を訪問したことと、最近になって日本側の本気モードにドライブが入ったことにはそれなりに関係しているのではないかと思えます。

しかしながら、私はトランプさんが当初から北朝鮮と戦争することは本気では考えていなかったし、今も本気では考えていないと思います。現在、北朝鮮は核実験も抑制し、ちょっと派手目に軍事演習をやったりしてお茶を濁しているわけですが、現状では中国の説得が功を奏しているように見えるとも言えるため、アメリカとしては敢えて先制攻撃をする口実がありません。韓国に10万人いると言われるアメリカ市民は現在も普通に生活しています。要するにアメリカはまだ本気モードには入っていなかったというわけです。北朝鮮がミサイルの発射でこのところ失敗が続いているのは、アメリカのサイバー攻撃によるものではないかとも囁かれますが、北朝鮮がミサイルを撃てば、かっこうの口実にもできますから、アメリカがサイバー攻撃を仕掛けているということは、本音ではやりたくないということの証左のように思えます。

最近、安倍さんが強気なのは、アメリカに対して「日本は準備ができている。覚悟は固めた」というメッセージなのではないかとも思えるのですが、トランプさんは「オバマとは違うのだ」とアピールするためにいろいろ強気なことを言ってはみたものの、本気ではなかった、あるいはそもそもやれなかったと考えれば、この数週間の動きは説明がつきます。大山鳴動して鼠一匹。豊洲もまたしかり…。トランプさんは就任当初こそ大統領令を出しまくったものの、最近はことごとく政策が実現しない状態に入っており、wall street journalからは「トランプは十分に共和党的ではない。良かった」と、なんじゃそりゃとコメントされる始末です。とりあえずはciaとトランプさんが手打ちをしない限り、アメリカは騒げども何も変わらないという日々が続くのではないでしょうか。

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