台北の西門町でフィレステーキを食べた話

台北でおいしい洋食を見つけるのは東京に比べると簡単ではありません。中華料理がある種の完成の域に達してしまっているので、新しい外来のものを採り入れるのにさほど長けていないために洋食もおいしくないのではないかという説明をされたことがあります。谷崎潤一郎は和食では関西の方が東京のそれよりもおいしいと言えるものの、洋食に関して言えば東京の圧勝というようなことを書いていましたが、これも京・大阪の和風文化の完成度の高さによってある程度説明できることかも知れません。

とはいうものの、最近の台北では急速に洋食が普及し、ピザ、パスタ、ステーキなどなど洋食のおいしいものが沢山食べられるようになってきています。さはさりながら、経済発展著しい台北では物価がとにかく上がっていますので、飽くまでも「お金さえ払えば」の条件付きになってしまいます。とはいえ、経済発展のピークは打っていますので、東京のように安くておいしい洋食が普及する日も遠くはないかも知れません。

今回行った台北の西門町にあるmcafeは、だいぶ古い洋食屋さんで、ステーキがおいしいです。パスタやラザニア、ポタージュスープなどは、まだ、ちょっと今一つ…なのですが、ステーキに関してはそんなことはありません。充分に、ばしっとおいしいです。上の写真はフィレステーキです。繰り返しますがおいしいです。

最初に出て来たパンは不思議なビネガーにつけて食べます。これはおいしいともおいしくないともなんとも言えない不思議な感じです。

パン
最初に出て来たパン。ビネガーにつけて食べます

次に出て来たサラダは下の方にスイカが入っていて、「おっなんじゃこりゃっ」となります。果物が好きな人にとっては、むしろいいのではないかと思います。台湾はさすが南国で、果物がすぐに育ちます。台湾の名産はなんと言っても果物でしょう。

サラダ
下の方にスイカが入っている

で、最後にステーキを食べたのですが、味がしっかりしていて、東京で食べられるものにひけをとりません。お値段も他の台北のステーキのお店よりは安いと思いますので、コスパのいい、満足度の高いお店と思います。

台北にはもっと安いステーキのお店もありますが、お店の人がこわかったりするのであんまり行きたくないです。




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台北で海鮮丼を食べた話

台湾は海に囲まれた島国ですから、漁業が盛んです。では、お魚がおいしいかというと、必ずしもそういうわけでもありません。以前、香港で食べたお寿司はおいしかったですし、パリで食べたお寿司もなかなかいけました。台北のように水産資源に恵まれているはずの土地でどうしてあんまりおいしくないのかという疑問が常にあるのですが、ここからは私の想像ですけれど、流通経路的にいいお魚は築地へまっしぐらという仕組みになっているのかも知れません。香港のお寿司がおいしいのも、そういう流通経路が確立されているのだろうと私は想像しています。

それはそうとして、それでも最近は台北で食べられる海鮮ものの味は格段に向上しています。いわゆる四小龍と呼ばれるエリアの中で発展があまりぱっとしなかった時期の長かった台北ですが、鴻海がシャープを買収したことでも分かるように、今や飛ぶ鳥を落とす勢いと言っていいところまで来ています。おそらく、台北市内の一般的な家庭の生活水準は日本のそれと同じか、場合によってはちょっと高いということもあり得ます。購買力平価は何年も前に日本よりも高くなっていますが、購買力平価そのものが経済力を知る上で有効な指標とも言いにくいので、それはさておきます。いずれにせよ、中国の経済発展に伴い、台北も飛躍的な発展を遂げ、消費者の求めるものの質が向上し、最近ではいい海鮮を出さないとお客が納得してくれません。というわけで、近年はお金さえ払えばいいお魚を食べることができます。

今回行った海鮮のお店はまあまあ安めな感じですが、そのわりにはわりかし豪華。サーモンもホタテも入っていて充分においしいです。酢飯なので夏の暑い日にはさっぱりと夏らしく楽しむことができます。日本人の我々にとってなじみがないのは、丼の上にのっている黄色いお刺身です。これはなんでもニシンなのだそうです。この写真で言えば奥の方、サーモンの隣にあるお刺身です。子持ちのニシンが人気があります。日本でニシンと言えばニシンそばぐらいでしか食べたことがないので、まさかニシンが黄色いとは想像もしていませんでしたが、食べてみると数の子みたいでコリコリしていておいしいです。



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『天や』築地店がなんとなく雅な件

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『天や』は私たちの味方です。おいしくて、安いです。消費税が上がっても値上げせずに天丼を提供してくれています。感謝以外の言葉がありません。

『天や』は安い、というイメージがありますから、店舗もそれなりというイメージが強いですが、築地店はなんとなく雅です。本部の意向なのか、店長さんの意向なのか、その辺りのことは私にはさっぱり分かりませんが、なんとなく雅なんです。

お店の中の雰囲気が明るいです。あと、多分カウンターの板がちょっと豪華です。カウンターの板だけかも知れません。でも、それだけで何となくパーッと明るくなった感じがする、いいものを食べに来た気がする、贅沢な気分になれる、貴重な場所です。

安くておいしい天丼を食べて、なんとなく豪華な気分になれるわけですから、ただただ感謝という言葉しかありません。築地四丁目の交差点に近く、近くには築地本願寺があります。大きなお寺です。江戸時代に創建されましたが、明暦の大火や関東大震災に伴う火災で二度焼失し、現在の伽藍は1930年代に作られたものだそうです。インド!という感じの建築で、築地本願寺に足を踏み入れるとなんとなく気持ちが引き締まります。作法通りにご参拝しなくてはいけないという心境になります。

築地本願寺
大きなインド風の伽藍の築地本願寺

築地本願寺の行き返りに立ち寄るもよし、すぐそこの築地市場でいろいろ楽しんで最後のしめに天やの天丼を楽しむもよし、築地エリアにちょっとしたアクセントをつけてくれる嬉しいお店です。

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明大前駅構内高幡そばのコロッケそばが素晴らしい件



明大前駅構内はちょっとしたパラダイスです。スープストックがあります。カレー屋さんがあります。あんドーナツを売っているパン屋さんがあります。そして、コロッケそばがおいしい高幡そばがあります。

コロッケをくずしつつおそばを食べるとコロッケにおつゆに染みてゆき、やがてコロッケがはらっとほどけて濃い味の和風ジャガイモスープになります。ああ、いい感じにコロッケが溶けてきたなあと愛しい目でコロッケを眺めつつ、おそばを啜ります。おいしいです。

コロッケそばは、きつねそばなどに比べるとそこまで浸透しているわけではないです。ましてや「おいしい」コロッケそばを出してくれるお店はそんなに多くはないと思います。しかも、多くの場合、コロッケそばを食べると、コロッケを揚げた油がじゅわーっと浮いてきてちょっと残念ながらべとべと感、ぎとぎと感がみなぎってしまいます。

高幡そばの場合、そういうことはありません。オーブンでコロッケを作っているので、油がべとっと浮いてくることはないらしいです。ポスターにそう書いてあっただけなので、お店の人にインタビューしたわけではありません。そんな度胸はありません。ただ、確かに、高幡そばのコロッケそばでは油が浮いてくるということはありません。さくっとしていて気持ちいいです。

明大前駅を通りかかる時は敢えて一旦下車してでも高幡そばに立ち寄らせていただき、コロッケそばを食べることもあります。駅の外に出るわけではないので電車賃の心配をする必要はありません。高幡そばには本当に感謝しています。あんなにおいしいコロッケそばを出してくださって、めっちゃありがたいです。

そばを食べた後はあんドーナツを食べるもよし。文明堂のカステラを買って帰ってもよし。明大前駅、最強です。



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つばめグリルでつばめハンバーグを食べた話

東京を中心に店舗展開しているつばめグリルは、まさにザ・洋食。ハンバーグのおいしいお店としてよく知られていると思います。

1930年創業と歴史も古く、それこそ谷崎潤一郎が東京と大阪の料理の違いについて書いていたころから存在していた由緒あるお店だと私は理解しています。

つばめグリルに行けばなんといってもハンバーグです。ハンバーグセットです。セットにはパンかライスが付きますが、個人的にはやっぱりライス。肉とライスの組み合わせは感涙もののおいしさです。味はまさしくザ・洋食。日本でしか食べられない、子どものころに家族で食べたあの洋食の味です。存在してくれていて本当にありがたいです。

焼いたじゃがいもが一個まるまるついているのに感動します。いろいろな種類のハンバーグがありますが、個人的に一押しなのは、ホイルで焼いたつばめハンバーグです。熱でパンパンに膨らんだホイルをナイフで切ると、ハンバーグが登場します。ああ、久しぶり。また来たよ。とハンバーグに微笑みかけたくなります。変な人だと思われたくないので本当に微笑みかけることはありません。一人で黙々と食べます。

ホイルを切るとぼわーっと湯気が出てくるところもたまりません。感動的です。

つばめグリル
つばめグリルのハンバーグからぼわっと湯気が立ち上っている様子

池波正太郎さんの『散歩の時何か食べたくなって』なら、お店の人にインタビューして人生物語を書いていくことになるのですが、私には度胸がないので、そんなことはできません。黙々と食べ、少し他のお客さんの様子を観察したり、お店で働いている人の様子を観察したりします。観察しても特にそんなに凄い感想や発見はありませんが、いろいろなところで人を見るのが楽しいですし、そういうのが好きです。最後はハンバーグとハンバーグを作ってくれた人に心の中で感謝の言葉を述べ、お水をたっぷり飲んだらさっと立ち上がってお会計のレジへと向かいます。

渋谷のつばめグリルに行った時は、そのまま信州屋さんに行くこともあります。食いしん坊も考え物です。安くておいしい地味ながら幸福な個人的な渋谷グルメコースです。

つばめグリルが渋谷と二子玉川にあることは知っていますが、他にもたくさん店舗があるみたいです。私が気づいていないだけです。




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渋谷の立ち食い蕎麦屋さんの信州屋が素晴らしい件



渋谷のマークシティの麓のエリアにある信州屋さんという立ち食い蕎麦屋さんは、私が密かに、そしてこよなく愛する蕎麦屋さんです。おいしいです。風味がいいです。蕎麦粉の分量が多いのかも知れません。蕎麦に弾力と歯ごたえがあります。なぜ、ここの蕎麦はおいしいのか、以前、詳しいことを書いたポスターが貼ってありましたが、今は貼ってないので詳しいことは分かりません。いずれにせよ、おいしいので、渋谷に行くことがあれば必ずと言っていいほど立ち寄ります。

人と会う前に心を鎮めるためにそばを一杯。今日は何を話すべきか、話さないべきか、大切なポイントはなにか、事前に心がけるべきことは何か、などを考えながらいただきます。かけそばで十分においしいです。上の写真はきつねそばですが、これは今回、そばを撮影するために、見栄えがよくなるかなあと思っていつもとは違うちょっと豪華なきつねそばにしました。かけそばでも十分においしいです。人と会った後、心を鎮めるためにもおそば一杯いただくために立ち寄ることもあります。その人と会った後の余韻について考え、本当にあの時の私の発言は正しかったか、相手の反応を思い出して、相手を心境を想像したりしながら、おそばを食べます。温かいおそばを食べると心と体が落ち着いて「まあ、がんばろう」みたいな気持ちになることができます。

ミニ丼のセットもありです。親子丼とか本気でおいしいです。椅子に座れる席がお店の手前の方にあり、奥の方では立って食べるようになっています。食べ終わったらついついトレイを返却口まで持っていきたくなりますが、返却口はありません。そこに置いたまま立ち去れば、お店の人が片づけてくれます。信州屋さんは新宿にもあるみたいですが、行ったことがないのでそちらのことはよく分かりません。



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スープストックで東京ボルシチを食べた話

スープストックは私が特に大好きな場所です。特に東京ボルシチが好きです。

最近はどうかわかりませんが、20年くらい前にニューヨークでスープを飲むのが流行し、コーヒーやジュースを飲む感覚でスープを飲んだそうです。アメリカ映画でそういう場面をちらっと見たこともあります。ただ、コーヒーやジュースだと水分補給ということもできますが、スープだと喉が渇いて水がほしくなるのではないかという気がするので、スープで飲み物を完全に代用できるかどうかは個人的には疑問です。ニューヨーカーに聞いてみないとその辺どうかはわからないかも知れません。

スープストックはニューヨークのスープブームを日本でも、というようなコンセプトで始まったと教えてもらったことがあります。おいしいスープが飲めるのなら、ニューヨークではやってようとなかろうと、どうでもいいといえばいいですが、とにかくおいしいので、日本にスープストックがあるというのは実にありがたいことです。メニューの中では東京ボルシチが一番好きです。肉!もいいですし、レモンとクリームが入っているのもおいしいです。煮込んだ感がすばらしいです。スープを飲むと煮込まれて溶けた野菜を舌で感じることができます。セットにするとごはんかパンか選べます。少し塩とごまがかかっている感じのごはんがおいしいです。

男性の客は少ないです。お客さんはほとんど女性です。黙って座って黙って食べて、黙ってセルフでトレイを返却することに個人的には美学を感じています。セルフでトレイを返却できるのが、どういうわけか少し楽しいです。

スープストックは二子玉川駅、品川駅、恵比寿駅、明大前駅にあることは把握しています。福岡にもありました。他はどうかはちょっとよく分かりません。スープストックとカルディはどんどんお店を増やして行ってほしいです。ポイントカードは全国のスープストックで使えますとお店の人に言われたので、今は全国のいろいろなところにあるのかも知れません。嬉しいです。スープストックに感謝です。

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品川駅構内のサザコーヒーで将軍珈琲を飲んだ話

品川駅は楽しい場所です。お蕎麦屋さんもあります。本屋さんもあります。カフェもあります。食べ物もいろいろ売っています。特にサザコーヒーが私は大好きで、売っているコーヒーチョコレートも好きですが、先日立ち寄って将軍珈琲を飲んでみました。少し値段が高いかも、とも思いましたが、とても濃い味です。徳川慶喜が幕末に飲んだものと同じコーヒーだということなのですが、濃くて苦い、味のしっかりしたコーヒーです。私はコーヒーについてよく知らないので、それ以上の感想なり分析を述べることができないのですが、確かにおいしい、また飲みたいコーヒーだということは間違く言えると思います。幕府とフランスが組んでましたから、フランス風になるらしいです。

徳川慶喜直系の御子孫の方が将軍珈琲をプロデュースしていらっしゃるということは以前から知っていたので、一度飲んでみたいと思っていたのですが、たまたまサザコーヒーにたちよることで、小さいながらも夢が実現した感じです。

明治維新後、徳川家は宗家の他にいわゆる御三家、御三卿があり、それぞれに御子孫の方がいらっしゃいます。徳川慶喜は後に徳川慶喜家の創設が認められ、今も御子孫の方がいらっしゃいますが、こちらの御子孫の方は独身を貫いていらっしゃるので、徳川慶喜家はいずれ断絶に至ると言われています。歴史のある家柄が消えてしまうのは少し寂しい気もしますが、時代の流れでそれぞれの人が自分の人生を自分の好むように生きるとすれば、そういうこともあると思います。徳川宗家の御子孫には若い方がいらっしゃるそうですし、尾張徳川家は徳川家の子孫の家の中ではもっとも裕福にお暮しになっていらっしゃるそうです。紀州徳川家を現在継承していらっしゃる方は独身を貫いていらっしゃるので、近い将来、紀州徳川家もなくなると見られています。ただ、「徳川家の子孫」を見つけようとすれば、松平姓の方たちを含めれば数百人になるそうですし、多くの大名家とも血縁関係がありますので、それらを辿って行き、女系男系関係なく含めればとてつもない数の方がいらっしゃるに違いありません。人は祖先を辿って行けば必ずどこかで共通の祖先がいますし、全人類の全ての源は10万年くらい前にアフリカにいた「イブ」と呼ばれる女性に辿り着きます。そういう意味では人類は全員、血縁があると言えなくもありません。そう思うと、人種や民族が違うからという理由で反発するのはやはりよろしくありません。

サザコーヒーで飲んだ時は使用されているコーヒーカップとお皿もとても素敵でした。コーヒーカップを見るのもコーヒー屋さんでコーヒーを飲むときの楽しみの一つです。サザコーヒーさん、ありがとうございます。

将軍珈琲の5杯分入ったパックを買って帰りました。800円で、少し高いかも知れないのですが、がっつり濃いコーヒーを飲みたい時にはこれはいいと思います。

将軍珈琲
将軍珈琲

品川駅にはスープストックもあります。感激です。

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映画『羅生門』の陰影と顔芸と成功する人生

黒澤明監督の『羅生門』がどれほどよくできた傑作かということについては、もはやここで語るまでもないことです。何度みても、その良さにひきこまれ、何回もみているのにもったいなくてよそに目を向けることができません。本当にいい作品です。

なんと言っても陰影の映像美が素晴らしいです。空、雲、太陽、木漏れ日、人の顔、立ち姿。白黒映画なので全部陰影ですから、当たり前と当たり前ですが、白黒のパワーが全開です。立つ姿だけで物語ることができます。台詞がなくても物語ることができます。男の走る姿、女の座る姿、台詞を必要としないエネルギーに満ちています。谷崎潤一郎の言う陰影礼賛が映画になったらこういう感じか、と思ってしまいます。

三船敏郎の顔芸が素晴らしいです。強さも弱さも余裕も窮地も顔で表現できています。顔の彫りが深いからかも知れません。表情だけで物語ることができます。この点は『エリザベス』にも共通したものです。もうちょっと言うと、動きと表情が男のエロスに満ちています。天分なのかも知れません。訓練ではカバーし切れないものを持って生まれてきた人と言ってもいいのではないかと思います。人生とはそういうものかも知れないです。人生で成功するためには「こんな風になりたい」と憧れをもって努力するよりも、自分の天分を見極め、天分のあるものを突き詰めていく方が効率がいいかも知れないということをこの映画を観ると考えてしまいます。

殺される武士の役の森雅之の彫りも深いです。しかし、顔芸が三船敏郎ほど豊かではありません。怒っている時も悲しんでいる時も喜んでいる時もあんまり変わりません。喜怒哀楽の変化を感じさせません。もし、三船敏郎と森雅之のどちらか端整かと問えば、文句なしに森雅之です。彫刻のように美しい顔をしています。しかし、弱さが似合いません。森雅之タイプが弱さを見せれば、単に情けなく見えてしまいます。一方で三船敏郎が弱さを見せるのも絵になります。かわいいやつに見えます。『七人の侍』でも『椿三十郎』でも時々見せる弱さや困惑が魅力的に映ります。男も女も三船も惚れます。弱さが絵になるというのは実にうらやましいことです。無敵です。やはり、これも天分と考えるのが妥当のように思えます。

京マチ子の顔芸もいいです。京マチ子はちょっとだけ雰囲気が田中裕子に似ていると思います。異論もあるかもしれないですが、仮に原節子や吉永小百合を引き合いに出すとすれば、田中裕子に近いと思います。私の好みが影響していますので、異論のある方に対してはすみませんとしか言えません。泣いても笑っても怒っていても絵になります。京マチ子の説明不可能な魅力は三分の一は訓練、三分の一は魂、残りの三分の一は持って生まれた顔の造形に原因するものではないかと思います。人間が生まれた後で伸ばすことができるのは訓練だけですから、どんなにがんばっても天分のない人は京マチ子になれません。私がいかに努力しようと三船敏郎になれないのと同じです。

霊媒師の岸田今日子が恐いです。本領が発揮されています。絶賛以外の言葉はありません。

誰がどの役にふさわしいかを見極めて適材適所した黒澤明が最終的には一番凄いということなのかも知れません。晩年の『夢』とかぶっちゃけそんなにおもしろくないですし、『乱』もちょっと多弁ではなかろうかと思わなくもありません。そういう意味では『羅生門』は監督の才能、役者さんやスタッフの巡りあわせ、時運の全てがかっちりと合わさって生まれた奇跡とも言えそうな気がします。

人生の成功は持って生まれた天分の見極めにあり、と言えるのではなかろうかと、今回改めて『羅生門』を観て思った次第です。

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『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の成功のモダニズム

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』はいい映画です。男子の心を掴まないはずがありません。堀江貴文さんは王立宇宙軍が好きで、夢を叶えたくて宇宙事業に投資し、40億円くらい騙されたという話ですが、夢を叶えるために最善を尽くすことには私は共感しますし、その原点が王立宇宙軍だというのもとてもよく理解できます。何故なら、この映画は男性が好きなものが全力で詰まっているからです。

仲間がいて、かわいい女の子となんとなく仲良くなれて、一夜にしてスターに祭り上げられ、失敗寸前で逆転的に成功する。男性にとってこれ以上充実した瞬間を得られることはないかも知れません。そういう意味では中二病です。しかし、中二病は男性の証明のようなものです。男をやるには中二病もやらなくてはいけません。宿命のようなものです。

主人公のシロツグラーダットは中年になりかけの普通の男です。架空の国にある架空の「宇宙軍」に就職しています。今風に言えば就職負け組です。空軍に入れるほど成績が良くないので宇宙軍に入ります。でもしかの就職です。将軍は有人宇宙衛星を打ち上げる夢を持っていますが、部下は誰一人としてそれが成功するとは信じていません。また、そんなものを打ち上げることに価値を感じてもいません。価値を感じないことのためになんとなく日々を過ごす、退屈な人生です。ある日、将軍は本気で有人宇宙衛星の打ち上げを宣言します。かわいい女の子に「戦争をしない宇宙軍は素敵」と言われて心境の変化が起きたシロツグが宇宙飛行士に志願します。予算がありません。裏のお金を使います。シロツグはマスメディアの脚光を浴びます。たかが宇宙、されど宇宙。子どもたちにとってはシロツグは英雄です。大人たちからは金の無駄遣いという白い眼で見られたりします。シロツグは悩みます。悩みながらも最後までやります。そこがいいのです。敵がロケットを狙って攻めてきます。もう諦めて退避するしかないという直前で、シロツグが「俺は一人でもやる。死んでも上がってみせる」と言います。スタッフがもう一度結束します。もうぎりぎり、敵が目の前のその時にロケットがあがり、見事にロケットが空を飛び、有人衛星が衛星軌道に乗ります。

敵が目の前まで来ているその時に成功するという展開がドラマチックです。自分の言葉で仲間が結束してくれる。こんなにうれしいことはないのではないかと思います。宇宙から極超短波で放送します。「宇宙軍は素敵」と言ってくれた女の子も聞いてくれているかも知れません。心が浮き浮きします。

シロツグはガンダムのアムロのような天才性は持っていません。シャアのような優秀な人物でもないです。ナウシカのようなカリスマがあるわけでもないです。職場に対してシニカルな目を持つ、いわば退屈な学校に我慢して出席している普通の男の子と同じです。そういう人が一夜にして脚光を浴び、困難を乗り越えて最後には成功を掴む。これほど男心をくすぐる話はありません。自分にもやれる、自分にもできる。そんな気がしてきます。

男は頭の中が何歳になっても同じなので、大人になってから繰り返しみても飽きません。見る度にカタルシスを得ることができます。確かに中二的で男の子っぽくて甘い幻想に満ちた作品なのかも知れません。ルパン三世と同じかも知れません。ただ、もしも、人は夢を見るために映画を観るのだとすれば、かくも夢見心地にさせてくれる作品もそうはないのではないかと思います。自分にも奇跡が起きるかも知れないという気分になれることはとても素敵なことです。

この架空の国の科学技術の水準は1950年代くらいに見えます。白黒テレビをブラウン管で見ています。今日よりも明日の方が進歩することを実感できた時代だと思います。近代は素晴らしい。自分も努力と少々の運によって成功できる、ビッグボーイになれると感じることができた時代に違いありません。努力して成功することこそ、モダニズムの特徴の一つです。都市に人が集まります。競争が生じます。困難に打ち勝ったものには神様が様々なご褒美を与えてくれます。自分の人生には意味があると感じることができます。しかし誰もがそう感じるためには、50年代60年代のような、人類史上でも稀に見る成長の時代でなくてはいけません。中産階級が幸福だと信じることができる時代でなくてはうまくいきません。

今の時代がどうかということは簡単には言えません。努力すれば成功できるというほど甘い時代ではありません。しかし、成功と幸福をワンセットに考える必要もありません。AIがなんでもやってくれるようになれば、仕事で成功すると幸福になれるというモデルに変化が生まれるかも知れません。金銭や社会的な地位で成功していなくても幸福だと感じられる時代が来るとすれば、『王立宇宙軍』のような男の子の夢モデルにこだわらなくてもいいかも知れません。それでもこの作品は男の子の心を直で刺激するので、どんな時代になっても楽しめる作品と思います。

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