昭和史43‐円谷英二撮影『皇道日本』のプロパガンダと映像美

日中戦争の真っ最中に撮影された東宝の国策映画『皇道日本』は、古事記、日本書紀を基に日本がいかに美しい神の国かということを宣伝する目的で制作されたものです。天照大神、ニニギノミコト、神武天皇のエピソードからざっと明治天皇まで、総ての天皇ではないですが、何人かの天皇をピックアップして紹介し、その歴史の「正統さ」「美しさ」が強調されています。戦争中のことですから、八紘一宇、万世一系、大和魂、日本精神等々の言葉も用いられ、国威発揚が目的とされていることが一回見ればわかる内容になっています。制作に関係した組織のそうそうたるところも目を引きます。賛助がどどんと「内閣情報部」、後援が内務省、文部省、陸軍省、海軍省、更に鉄道省、南満州鉄道株式会社、同盟通信社に対し情報提供に対する謝辞が述べられています。続いて宮内省への謝辞。更に「謹告 本映画に関しては全編を通して処々に皇室に関する畏き御写真が映写されますから凡て脱帽の上拝しませう」という言葉が出てきます。仰々しい、どうだ、ありがたみたっぷりだろうという始まり方です。

内容は既に述べたように「美しい日本」なわけで神武天皇の苦労した話とか、後醍醐天皇が苦労した話とか、明治天皇の美談とかが語られています。この作品が台湾の女学校で上映されたことは資料で確認していますが、想像ではあるものの、朝鮮半島、関東州、満州国などでも上映会のようなものが行われた可能性は十分に高いと思います。

私は個人的にこの映画を押し広めたいとか、日本は神の国だからすばらしいのだとか、そういうことを言いたいとは思いませんが、映像は美しいです。なにせ、撮影者円谷英二さんの出世作です。神社、絵画、深山幽谷がゆっくりとかつ流れるように撮影されています。当時、フィルムは高価な貴重品ですから、限られた資源の中で計算しつくし、考え抜いて効果的な画面配置と画像の速さを決めたに違いありません。色んな神社が撮影されていますので、谷崎潤一郎の陰影礼賛をも連想してしまいます。私は国家神道がいいとは思いませんが、「神社ってありがてえ。今度、行ってみっか」くらいの心境になることはできそうな感じの作品と思います。雅楽の場面もあって、円谷英二さんですから、迫力のある雅楽の映像になっており、それがのちにゴジラやウルトラマンへと昇華されていくのかというムネアツを抱いて鑑賞することも可能と思えます。

日本帝国にとって国体=天皇は国是ですから、日本人が日本国内で日本は美しいと自画自賛することはそれでもいいと思いますが、植民地の人たちにもそのように思わせようという宣伝工作が工作が熱心に行われ、それがいわゆる皇民化なわけですが、果たしてそれが効果的なことと言えるのかどうか、個人的にはちょっと疑問に思えます。キリスト教の場合、博愛の精神、人類の罪を自らの命で贖ったイエス様の尊さという普遍的大義名分はありますが、日本神道は民族の物語なので、ユダヤ教に近い性質のものとも思え(民族の定義は長くなるのでまた別の機会に)、民族の物語を別の民族の人たち、朝鮮半島や台湾や満州の人たちに伝えたところで共感を生むのかどうか、疑問に思えてなりません。しかしながら、たとえば溥儀は天照大神に対して深い信仰心を持っていたという話も聞いたことがありますから、宣伝次第で人の心は移ろうものともいえるのかも知れません。宣伝、プロパガンダとは奥の深いものと思えます。

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