昭和史25‐国民貯蓄の奨励

とある情報機関の機関紙を追いかけているわけですが、昭和13年6月1日付の号に「国民貯蓄の奨励」なる記事が存在しましたので、ちょっと紹介してみたいと思います。
本来、国民が消費をすれば景気が上向きGDPも増えるわけですから、必ずしもマクロ経済で国民貯蓄がいいと言えません。しかし、なにゆえに国民貯蓄を奨励しなければいけないのかと言えば、曰く

現在戦争をしてゐる我が国としては戦争のために必要な資材の供給を充分ならしめるだけで生産設備の拡充にしても原材料の輸入にしても既に手一杯であって、国内消費のための品物を造る平和産業の方面に力を入れてその供給の増加を図る余裕はない

というわけです。前回、戦費の調達について触れましたが、戦費をどんなに調達しても物資が無駄にインフレになるだけで、調達した戦費の分はふっとんでしまうことを指摘しましたが、当該情報機関は民間の需要を抑えることでインフレーションに歯止めをかけようとしていたことが分かります。また、銀行に貯蓄をすれば銀行が国債を買うことができますから、国民の全資金を戦費を充てることも理論上可能と言えます。もうちょっと言うと、郵便局で国債を買うのも貯蓄の一つの方法だと当該記事では奨励していますから、本当に、本当に、本当に戦費に困っていたことが読み取れるのです。

当該の号ではラジオ体操の奨励もしており、これはベネディクトアンダーソンの『想像の共同体』で言うところの、国民みんなで同じ時間に同じことをやるという、ある種の幻想によってナショナリズムの完成を期したものであるとの指摘も可能ですし、時局解説映画の巡回をやっているとの報告もあり、昭和13年と言えばまだまだ日本の敗戦などということが起き得るとは誰も予測していなかったでしょうから、この時期であってすらこの必死な様相に、私は個人的に当該情報機関に対して涙ぐましいという感想すら持ってしまいました。

当該の号では蒋介石は中国内部で孤立を深めつつあり、東南アジア華僑も蒋介石を見捨てつつあるなどの指摘もしていましたが、蒋介石は英米からの援助ルートを確保しているという点で他の中国の軍閥を圧倒していると言ってもよく、このあたり、分析が甘すぎるのではないかと昔のことながら心配になってしまいます。とりあえず当面、この情報機関の機関紙を追いながら、私なりに昭和史を追いかけてみたいと思います。

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