アメリカ映画『シンレッドライン』とナウシカとキリスト

ガダルカナル島の戦いを描いたアメリカ映画である『シンレッドライン』は戦場のヒロイズムを完全に拒否する内容の映画です。そのうえで、人間が殺し合う中で、人は如何にあるべきかを問いかける内容になっています。

主人公の男性はガダルカナルと言う南の島に来て、その自然に魅せられ、自然を愛し、土地の人々をも愛しています。また、部隊の仲間を愛し、敵(日本兵)を憎むと言うことがありません。基本的には自然や子どもと戯れることを好みますが、戦場に立てば率先して危険な任務を引き受けます。嫌味を言う上官にも反感を持ちません。

戦場では人間性が失われていくことが常だと思います。私は戦場に行った経験がありませんから、想像するしかないですが、普通の感覚、善良で良識を持つ市民の意識はバランスを失い崩れて行くとしても、不思議ではないだろうと思います。

ガダルカナル島に上陸し、見えない日本軍からの攻撃に怯えて前進するアメリカ兵の姿はまるでベトナム戦争の映画を観ているのではないかと思うほど、恐怖と苛立ちに満ちています。オリバーストーンの『プラトーン』は私には多少悪趣味なところがあると感じられるのですが、『シンレッドライン』ではそういう印象は受けませんでした。

多くの戦友が死に、死闘を超えてようやく日本軍のトーチカを陥落させた時、投降する日本兵を殺害するという明らかな国際戦時法違反の場面もありましたが、これもヒロイズムを拒否する制作者の姿勢を示すものだと思います。日本兵がバラバラと出てくるところはちょっとカッコ悪いと言うかどんくさい感じがして、『グレムリン』が日本兵をイメージして作られたという話を思い出したりもしましたが、後半ではわりとちゃんとしていて、喜怒哀楽を持つ普通の人間として、または感情的にならずに降伏を勧告するまともな軍人として日本兵が描かれており、憎むべき敵を倒してやっぱりアメリカ最高だぜ、映画を観るなら『インディペンデンスデイ』か『トップガン』だぜ的なものとは完全に一線を画しています。

主人公の男性は戦友が死に行く時に微かな笑顔をみせます。優しい表情で看取る、寄り添うという感じです。捕虜になって落胆する日本兵に対しても同様の優しい表情を向けます。憎むということがありません。

斥候として3人1組で前進した時に日本軍に発見されます。1人が撃たれて倒れたとき「自分がここで食い止めるから、急いで部隊に帰って知らせるように」と残りの一人に促します。そして今にも死にそうな戦友に寄り添います。

私はここまで観て、ああ、ナウシカと同じなのだと感じました。勇敢であり、自己犠牲的であり、死に行く者や弱い者に限りない優しい眼差しを向ける。男女の性別の違いがあるだけで、その理想とするところ、制作者が描こうとしているものは同じなのだと感じることができました。

最後は一人で日本軍に取り囲まれます。降伏を勧告されますが、彼は銃を取り、その当然の結果として撃ち殺されます。これはイエスキリストを象徴していると考えるのが妥当ではないかと思います。諸々の人間の罪と弱さを全身で引き受けて、死んで行きます。自分の命で贖います。

しかしながら、主人公の彼は福音書に書かれているようなイエスキリストとは違い、奇跡を起こすことはありません。無力で、ただ目の前に存在する自然と人を愛し、人間の罪を命で贖う姿は遠藤周作さんのイエスキリストイメージとも一致するように思えます。

最後の方で、上官役のショーンペンが、「自分の目で見ることによって創造している」という主旨のことを言います。「見えるものは全て自分が創造しているもの」と言い換えてもいいかも知れません。ユーミンの「目に見える全てのことはメッセージ」にも近いものだと思います。「天国はあなたの心の中にある」という聖書の言葉にも通じる考え方であり、もうちょっと敷衍するとすれば、ある意味では形而上学的であり、さらに踏み込んで言えば宗教というボーダーを超えた人間学的な要素があり、心理学的な要素もあると言えると思いま

大変に深い映画です。戦場で燃えさかる火がとても美しく映し出されます。人の死んで行く姿と南国の美しい自然の対比があります。また、主人公の男性の深い優しい表情は、演技であれができるのはほとんど詐欺師に近いのではないかと思えるほど美しく、普段でもあんな感じだとすれば、本物の神様なのではないかと思ってしまいそうなほどに神々しいです。繰り返して見るべきとてもいい映画だと思います。『わが青春のマリアンヌ』の主人公の男の子も鹿とか犬とか寄ってくる神様キャラですが、どっちがより神様キャラかと問えば、『シンレッドライン』の勝ちと思います。

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