『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の成功のモダニズム

『王立宇宙軍 オネアミスの翼』はいい映画です。男子の心を掴まないはずがありません。堀江貴文さんは王立宇宙軍が好きで、夢を叶えたくて宇宙事業に投資し、40億円くらい騙されたという話ですが、夢を叶えるために最善を尽くすことには私は共感しますし、その原点が王立宇宙軍だというのもとてもよく理解できます。何故なら、この映画は男性が好きなものが全力で詰まっているからです。

仲間がいて、かわいい女の子となんとなく仲良くなれて、一夜にしてスターに祭り上げられ、失敗寸前で逆転的に成功する。男性にとってこれ以上充実した瞬間を得られることはないかも知れません。そういう意味では中二病です。しかし、中二病は男性の証明のようなものです。男をやるには中二病もやらなくてはいけません。宿命のようなものです。

主人公のシロツグラーダットは中年になりかけの普通の男です。架空の国にある架空の「宇宙軍」に就職しています。今風に言えば就職負け組です。空軍に入れるほど成績が良くないので宇宙軍に入ります。でもしかの就職です。将軍は有人宇宙衛星を打ち上げる夢を持っていますが、部下は誰一人としてそれが成功するとは信じていません。また、そんなものを打ち上げることに価値を感じてもいません。価値を感じないことのためになんとなく日々を過ごす、退屈な人生です。ある日、将軍は本気で有人宇宙衛星の打ち上げを宣言します。かわいい女の子に「戦争をしない宇宙軍は素敵」と言われて心境の変化が起きたシロツグが宇宙飛行士に志願します。予算がありません。裏のお金を使います。シロツグはマスメディアの脚光を浴びます。たかが宇宙、されど宇宙。子どもたちにとってはシロツグは英雄です。大人たちからは金の無駄遣いという白い眼で見られたりします。シロツグは悩みます。悩みながらも最後までやります。そこがいいのです。敵がロケットを狙って攻めてきます。もう諦めて退避するしかないという直前で、シロツグが「俺は一人でもやる。死んでも上がってみせる」と言います。スタッフがもう一度結束します。もうぎりぎり、敵が目の前のその時にロケットがあがり、見事にロケットが空を飛び、有人衛星が衛星軌道に乗ります。

敵が目の前まで来ているその時に成功するという展開がドラマチックです。自分の言葉で仲間が結束してくれる。こんなにうれしいことはないのではないかと思います。宇宙から極超短波で放送します。「宇宙軍は素敵」と言ってくれた女の子も聞いてくれているかも知れません。心が浮き浮きします。

シロツグはガンダムのアムロのような天才性は持っていません。シャアのような優秀な人物でもないです。ナウシカのようなカリスマがあるわけでもないです。職場に対してシニカルな目を持つ、いわば退屈な学校に我慢して出席している普通の男の子と同じです。そういう人が一夜にして脚光を浴び、困難を乗り越えて最後には成功を掴む。これほど男心をくすぐる話はありません。自分にもやれる、自分にもできる。そんな気がしてきます。

男は頭の中が何歳になっても同じなので、大人になってから繰り返しみても飽きません。見る度にカタルシスを得ることができます。確かに中二的で男の子っぽくて甘い幻想に満ちた作品なのかも知れません。ルパン三世と同じかも知れません。ただ、もしも、人は夢を見るために映画を観るのだとすれば、かくも夢見心地にさせてくれる作品もそうはないのではないかと思います。自分にも奇跡が起きるかも知れないという気分になれることはとても素敵なことです。

この架空の国の科学技術の水準は1950年代くらいに見えます。白黒テレビをブラウン管で見ています。今日よりも明日の方が進歩することを実感できた時代だと思います。近代は素晴らしい。自分も努力と少々の運によって成功できる、ビッグボーイになれると感じることができた時代に違いありません。努力して成功することこそ、モダニズムの特徴の一つです。都市に人が集まります。競争が生じます。困難に打ち勝ったものには神様が様々なご褒美を与えてくれます。自分の人生には意味があると感じることができます。しかし誰もがそう感じるためには、50年代60年代のような、人類史上でも稀に見る成長の時代でなくてはいけません。中産階級が幸福だと信じることができる時代でなくてはうまくいきません。

今の時代がどうかということは簡単には言えません。努力すれば成功できるというほど甘い時代ではありません。しかし、成功と幸福をワンセットに考える必要もありません。AIがなんでもやってくれるようになれば、仕事で成功すると幸福になれるというモデルに変化が生まれるかも知れません。金銭や社会的な地位で成功していなくても幸福だと感じられる時代が来るとすれば、『王立宇宙軍』のような男の子の夢モデルにこだわらなくてもいいかも知れません。それでもこの作品は男の子の心を直で刺激するので、どんな時代になっても楽しめる作品と思います。

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